吸血鬼の翼

行方





イクシス曰わく、風が吹く方角から香(こう)を焚いた様な匂いがするそうだ。
普段、使う様な匂いとは違うらしく、どうやら幻惑術とかで使用する異質の物らしい。
主に標的にする者を引き寄せる力のあるテピヨンという香。
魔法に近い術の様だ。

美月や佐々木にはその妙な“香”の匂いを察知出来なかった。恐らく狙った者だけを引き寄せているのだろう。
或いは、それに反応した者を導いている。
そして、幻惑に掛かった特徴として、譫言(うわごと)めいた言葉を発するそうだ。

つまり、それに千秋が惑わされて香が匂う所まで行っている可能性が出た。

イクシスがテピヨンの匂いを察知出来て、尚且つ惑わされないのはそれに対する免疫があるらしい。

「…イクシス君、もしかして、それで家から出て来たの?」

「……うん…後、暇だったし…」

「………。」

美月はイクシスが本当に家から出て来た理由を聞く。
それに肯定するものの、余計な動機を付け加えたイクシスを出来るだけ流す事に決める。

「んじゃ、そのテピヨンって香?か何か知らねぇけど探しに行こうか。」

「うん、イクシス君…お願い、その匂いのする方へ案内してくれるかな…」

「……分かった…」

美月の要望にイクシスは変わらず、眠そうな表情で小さく頷いた。
まるで、香が何処から流れているのか分かっているかの様に彼の足取りは軽いものだった。

それに不思議と思いながらも、今はイクシスに頼るしかない美月と佐々木は後を追う。

香…魔法に近い術、か。

やはり、クラウの仕業なのだろうか?
それとも、また別の誰かがやっているのか?

色々、謎の多い状況に困惑しながらも、美月は千秋の身を案じて前に進んだ。


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