吸血鬼の翼
「然る者を探している。」

「…然る者?」

青年は静かに話し出すと金の瞳に美月を映した。

「異世界の少女だ。」

その言葉を聞いた美月は一瞬、ドキリとした。
もしかしたらと自分が行き着いた答えを頭の中へ浮かべた。

「……まだ見つかってなかったのね。」

「何だと?」

ポツリと呟いた美月の言葉を耳に入れた青年は訝しげに見やる。
それに我に返った美月は驚きつつも、口を噤んだ。

「小娘、何か知っているのか?」

美月の顎に手を掛けた青年は自分の顔と向かわせ、真意を探ろうとする。

「……知らない。」

青年の手を振り払う力も今では持ち合わせていないので目を逸らすだけで精一杯だった。

この人は“敵”だ。

理由は今の怖い気持ちだけだが、美月にはそれだけで充分だと思う。

だって、“あの人達”ならこんな酷い事しない。

だから、バレてしまう訳にはいかないのだ。
離れて尚、あの人達に迷惑を掛けたくない。
足を引っ張りたくない。
口が滑った自分の軽薄さを悔やんで瞼をキツく閉じた。

「戯言を抜かすな、隠している事を吐いて貰おうか。」

「…やだっ…放して!」

必死に抗おうとする美月に青年は舌打ちをする。
捕まえられていた体から手が放された。
解放されたかと美月は呆然としたが、直ぐにそれは絶望へと変わる。

先刻以上に全身が痺れるように動かない。

無数の糸が自身の体を縛っているのを理解した美月は一気に血の気が引いていく。

「立場を理解しろ、小娘。オレ達の“領域”に入った時点でお前達に決定権はない。」

「……っ…」

美月の脅える薄茶の瞳には恐怖から涙が溢れていた。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
私、また…
此処には居ない人達や佐々木を頭に思い浮かべて心の中で何度も謝る。

「今ならまだ楽にしてやるが、抵抗するなら拷問するぞ。生爪を剥がされたいか?」

暗闇の中で金の瞳を鈍く光らせ、更に美月へ追い討ちを掛ける。




“獲物”に集中している所為か、青年は廊下を歩く“1つの影”に気付かずにいた。

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