猫系男子の甘い誘惑
「誰の車?」
「俺のって言いたいとこだけど、姉貴の。だから、妙に少女趣味でしょ」

 小さな赤い軽の車内には、ぬいぐるみが飾られ、ダッシュボードに置かれた芳香剤には、リボンが巻かれている。座面に置かれているクッションもカバーも、やけにフリルとレースが満載で、たしかに佑真本人の車ではなさそうだった。

「よかったの? お姉さんの車……今日使うんじゃ?」
「今日は彼氏とデートなんで」
「あ、そう」

 こちらは振られた痛手から立ち直ってないのに、他の人達はデートだというのは不公平だ。

(他人の幸せ妬んでいてもしかたないけど)

 隣に目をやれば、姉の車だというのに妙に慣れた雰囲気だ。この少女趣味な雰囲気を気にしているようでもないし、ひょっとするとしょっちゅう借りているのかもしれない。

「……で、どこに行くの?」

 可愛くない口調だとわかっているけれど、背もたれに背中を預けて足を組んだ倫子は、真っ先に問いかけた。

「ナイショって言ってるでしょ。先に言ったら、楽しみがなくなっちゃう。あ、コンビニ寄るんで、そこで飲み物買おう」
「内緒ってねぇ……」

 ため息をついた倫子にはとりあわず、佑真は鼻歌まじりに車を走らせる。

 途中で買い物のために車を停め、高速に三十分ほど乗ってつれてこられたのは妙にのどかな場所だった。
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