猫系男子の甘い誘惑
(それが、敦樹にとっては、好都合だったってことなんだろうけど)

 社内では倫子と。そして、社外では大学卒業に再会した大学の後輩と。二人との付き合いを進めるのなんて、敦樹にとってはたやすいことだっただろう。

 倫子の仕事が忙しい時期を、同じ会社にいる敦樹は完全に把握することができた。だから、倫子が忙しい時期には後輩と会っていたわけだ。

 倫子の仕事が暇になって、倫子と過ごす時期には、後輩には「仕事が忙しいからしばらく会えない」と言っておけばいい。

 彼の隠蔽工作は完璧で――おそらく、二股をかけられていた期間は二年近く。倫子は何一つ気づかなかった。

「あー……、もう、Naoにしばらく行けない……!」

 倫子は呻く。酒を飲むのは好きだが、今まで醜態をさらしたことなんて一度もなかった。それなのに、お気に入りの店でそんなことになるなんて。

「自己嫌悪以外、どうすればいいっていうのよ……」

 まずは熱いシャワー。それから、気を落ち着けて考え直そう。数日のうちに、店に詫びを入れに行った方がいいかもしれない。

「倫子さんー、ねえ、どこ行くの?」
「シャワー!」

 能天気な男のことなんてもう知るか。倫子はシャワーに頭を突っ込むと、我慢できる限界ぎりぎりまでお湯を熱くした。
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