猫系男子の甘い誘惑
罠に飛び込んでみる
　シャワーから出てきた時、佑真がまだいることを期待していたわけではなかった。帰りたかったら帰ればいい。ここの支払いくらいどうにでもなる。

　ありあわせの化粧品でどうにかみられるように顔を調え、濡れた髪を乾かしてから倫子が部屋に戻った時、佑真はまだ残っていた。

　昨夜着ていたと思しきスーツに着替え、ベッドに腰かけている。着替えた倫子を見ると、へらっとした笑いを浮かべて見せた。その笑顔にまたいらっとさせられたのは、二日酔いで頭が痛いからというのだけが理由ではないはずだ。

「何でまだここにいるわけ？」
「だって俺、約束守ってないもん」
「約束？」
「うん」

　いらついているのを隠そうともしない倫子をよそに、完全に悪びれない表情の佑真は倫子の腕を掴んで自分の隣に座らせた。
　
　ちらりと横目で確認してみれば、艶々している。ものすごく艶々している。昨夜遅くまで飲んでいたとは思えない。

（……若いってステキ）

　なんてらちもあかないことを考えてしまったのは、先ほど浴室の鏡で確認した自分の顔とは全然違うからだろう。

　二十七という年齢は、世間ではそこそこ若いうちに入るのだろうが、ここのところの心労もあって、鏡に映った顔は、実年齢より十歳近く老けこんで見えた。

「あのね、倫子さんに俺、約束したわけ――俺ね、倫子さんを抱かせてくれたら、あいつに復讐するの手伝ってやるって約束したんだ、昨日」
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表紙・目次

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