自分勝手なさよなら
イージーライダー
九州、福岡、中州。
テレビや雑誌で見たことがある、屋台がひしめきあう福岡きっての繁華街だ。

もちろん訪れたのは初めてだったこの街で、私は好きな人と橋にもたれて、夕陽に染められた川を眺めていた。

老舗のイカ刺があるお店を、彼が予約していてくれたが、少し早めに着いてしまった。
ストリートミュージシャンが、ビートルズのlet it beを歌っている。
彼は携帯をいじりながら、何も喋らない私を怪訝な顔で覗きこんだ。

息をのむ。

言いたくない。

ここで、言わなければ…もっと幸せな時間は続くのだろうか。

「たぶん」

ゆっくり冷静に、切り出すつもりが、声が震えた。
後が続かない。

「たぶん、何?」彼が聞く。

「たぶん、今日が最後になる。」
情けない。涙声になってしまった。

「何で?」彼はすっかり九州のイントネーションで少し怒ったように続けた。
たった数ヶ月で言葉は簡単に移るものらしい。

「旦那さんのこと?」
私はうなずく。
「あれから、どうなったんですか?」
あれから…というのは私が彼と別れるかもしれない、と漏らしたことがあった数ヶ月前のことだ。

そう。
私には結婚して五年目の夫がいる。
そのうえで、好きな人と中州んてことをのたまわっている。
避難されて当然の関係。

どうしてこうなったんだろう。
どうしてここまで来たんだろう。
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