素顔で最高の恋をしよう
 聞くなら今だと、思いきりストレートに尋ねてみた。
 すると架くんは眉根を寄せて口を半開きにし、心底あきれたような表情になった。

「あのさ、葉月さん。俺の話、ちゃんと聞いてた?」

 まるで話が通じていないとばかりに、架くんが私の顔をじっと見つめる。
 そんなにおかしい質問をしただろうか。

「彼女はいません」

「そ、そうなの」

「凪子さんに、作らないように言われてるのもあるから」

 社長が、架くんにそんな話を……。
 それはいったいどういう心情での発言なのだろう?
 今の架の言葉を聞く限りでは、社長とは付き合ってはいないようだけれど。


 うちの社長は恋愛の酸いも甘いも知っていて、その上で恋をすることは辞めない。
 恋愛のない人生なんてつまらないと豪語し、私のような消極的な人間にも勧めるくらいの猛者(もさ)だ。

 だから架くんにも当然勧めるはずなのに、恋人を作るなとは、どういう了見(りょうけん)なのかわからない。

< 88 / 273 >

この作品をシェア

pagetop