傷む彼女と、痛まない僕。

 吉野さんの父親が、身体を丸めながら咳き込む。

 その隙に、もみ合いで潰れてしまった通学カバンを肩にかけ、痛みに悶えている吉野さんを抱き上げると、急いで吉野さんの家を飛び出した。

 吉野さんの家の付近に土地勘がなく、どこに向かって逃げれば良いのか分からない。

 あの男が追って来ない場所。 兎に角、遠くへ遠くへ。

 がむしゃらに走っていると、

 「北川くん、降ろして」

 吉野さんが、申し訳なさそうに囁いた。

 「恥ずかしいかもだけど、我慢して」

 吉野さんを抱きかかえて出てきてしまった為、吉野さんに靴を履かせる事をすっかり忘れてしまっていた。

 裸足で歩かせたくないし、何よりこんなにもダメージを受けている吉野さんの身体の負担を、少しでもやわらげたかった。
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