ヒーローに恋をして
「ももちゃん」
肩を叩かれて目を開ける。いつのまにか眠っていたらしい。コウは既にタクシーを降りて、ドアを開けたままこちらを覗きこんでいた。
「着いたよ」
言われて視線を上げれば、隣の家と向かいのビルの窓から漏れる灯りを光源に、桃子の住むアパートがぼやりと建っていた。築何年になるのか、和製ホーンデットマンションのような佇まいのこのアパートはまちがいなく我が家だ。そう気がついて急いで外に出る。桜の時期は過ぎたとはいえ、夜も深まるこの時間は空気が冷たく、残っていた眠気は一瞬のうちに去った。
「ありがとうございます」
お疲れさまでした、と言おうとして。
バタン。
桃子の真後ろでドアが閉じて、タクシーはそのまま走り去った。
「え!」
慌てて、でも寝起きの身体はすぐに反応しない。焦っている間にタクシーは角を曲がり見えなくなる。
「あー行っちゃったね」
なんでもないことのようにコウが言う。ポカンとしていた桃子は急いでスマホを取りだして、タクシー会社を検索する。今すぐ来てくれる送迎サービスを探していると、
「ね、ももちゃん。この時間からタクシー待って帰るのも嫌だから、泊めてくれない」
再びなんでもないことのように言ってニコリと笑うコウに、今度こそ固まった。
肩を叩かれて目を開ける。いつのまにか眠っていたらしい。コウは既にタクシーを降りて、ドアを開けたままこちらを覗きこんでいた。
「着いたよ」
言われて視線を上げれば、隣の家と向かいのビルの窓から漏れる灯りを光源に、桃子の住むアパートがぼやりと建っていた。築何年になるのか、和製ホーンデットマンションのような佇まいのこのアパートはまちがいなく我が家だ。そう気がついて急いで外に出る。桜の時期は過ぎたとはいえ、夜も深まるこの時間は空気が冷たく、残っていた眠気は一瞬のうちに去った。
「ありがとうございます」
お疲れさまでした、と言おうとして。
バタン。
桃子の真後ろでドアが閉じて、タクシーはそのまま走り去った。
「え!」
慌てて、でも寝起きの身体はすぐに反応しない。焦っている間にタクシーは角を曲がり見えなくなる。
「あー行っちゃったね」
なんでもないことのようにコウが言う。ポカンとしていた桃子は急いでスマホを取りだして、タクシー会社を検索する。今すぐ来てくれる送迎サービスを探していると、
「ね、ももちゃん。この時間からタクシー待って帰るのも嫌だから、泊めてくれない」
再びなんでもないことのように言ってニコリと笑うコウに、今度こそ固まった。