ヒーローに恋をして
 だれもいないバスケットコートに、ボールがひとつ飛んでいく。
 立ち尽くす桃子の真横を、弾丸のように突き抜けていくボール。桃子は固まったまま動けない。

 ダン! 

 鋭く重い音をたててボールが真後ろの扉にあたる。
 投げつけた方は桃子の存在など気づかず、コートのゴールを見上げ、そして膝を折る。

 背中を丸め声をあげて、コウが泣いていた。床の上で固められた両手の拳に、ぽたりぽたりと涙が落ちていく。カメラがその泣き顔を真横から撮る。上から伸びるガンマイクと、それらを囲うように掲げられたレフ板。

 背中を見つめる桃子の――ユキの表情は固い。けれど一度またたきをした瞬間、ユキの片目から一筋、涙がまっすぐに落ちていった。
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