ヤンキー?なにそれ、美味しいの?

「透」


たった一言。

決して大きくない、優しい穏やかな声で名前を呼ばれた安達くんは、振り返る。


「何だよ、楽しそうじゃん」


にこやかだけど、どこか恐怖を感じるその人は、いつか見た安達くんの先輩で。

少しだけ残っていたクラスメートもただならぬ空気を感じて、静まり返った。


「…あの人、なんか怖くない?」

「ちょっと、離れよう」


後ろでヒソヒソとそんな声が聞こえる中、内藤先輩は少しだけ柔らかく口角を上げて、

安達くんに向かって勢いよく足を振り上げた。


「うわあああ!!」
「きゃあああ!!」


クラスメートの悲鳴と逃げ出す足音が聞こえる。


安達くんは、その蹴りを避けたものの少し掠ったようで腕をふるふるっと動かした。


「らしくねーじゃん、こんなの参加して」


言いながら、少しずつ距離を詰める内藤先輩に、少しだけ残って片付けをしていたクラスメートは全員逃げ出し、

安達くんと、苺花、いおちゃんの3人だけが残された。


「…移動しません?」


安達くんは、後ろにいる苺花たちを気にしてか、1歩も下がることなく、そう言った。


「ふーん?別に、いいけど。じゃあ行こうよ」


飴を舐めながら、興味深そうに苺花といおちゃんを一瞥し、内藤さんは、そう言って背を向ける。


黙ってそれに続こうとする安達くんの腕を、
苺花は、思わず掴んだ。
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