十一ミス研推理録 ~自殺屋~
 意見を求められた十一朗も、小説にしおりを挟みながら、続けて二人に倣うように、
「左足をつかまれた時の助かる方法も付け加えれば? 僕はあなたの子どもの『ヒロタカ』ではありませんって答えるとか」
 即席で思いついた案を告げる。
 妙な都市伝説づくりに深入りするつもりはない。妥当な答えだったのでは――と、十一朗は我ながら満足した。
 しかし答えた途端、
「それって、私の名前、引用してない?」
 奥に座る部員から声が上がった。見ると声の主は、十一朗の幼馴染み、三島裕貴(ゆき)である。
 『裕貴』は文字だけなら男のように思えるが、正真正銘の女子高生だ。何故、名前がそうなってしまったのか説明すると、理由は彼女の父親にあった。
 待望の妊娠。看護師にそれを聞いた父親の喜びは、それはもう病院の伝説となっているくらいだ。だが、その喜びの異常さが過ちを招いた。
 父親は男が生まれると確信し、数か月掛けて子どもの名前を『裕貴(ひろたか)』にすると決めた。
 ところが、生まれたのは女の子。父は動揺で名前を考え直す余裕などなかったのだろう。漢字を変えずに読みだけを変えて書類を提出したのだ。『裕貴(ゆき)』と……
 その名前を引用されて、話まで吹っかけられた裕貴は、不服そうに頬を膨らませている。部員のひとりは悪びれる様子もなく、高度な技で鉛筆を器用に回してから笑った。
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