私の上司



「いらっしゃいませ。」


品のある店員さんに
店内に飾られた可愛い雑貨達。




都会に少し小さく佇むフレンチで、
宣言通り贅沢をしようとメニューを開くと震える私の携帯。




メールボックスの宛名を見た瞬間に思わず唾を飲んだ。





…一ノ瀬さん。





反応が楽しみなんて言っちゃったけど
あんなメモ、彼は相当怒るに違いない。




そっとメールを開くとシンプルに並ぶ彼からのメッセージ…5字。





"今どこだよ。"





[近くのソフレンというフレンチ料理屋さんにいます。]





お互いの感情のないメールのやり取りは私の緊張もより高めてしまった。





横を通った店員さんを呼んで、




『もう1人…来ると思います。』





そう伝えた私はもう逃げ出したいのが本音だけど。




しばらくすると、




チャリンっ





と少し乱暴に店の扉が開いて、



額に汗を浮かべた一ノ瀬さんの瞳が私を捉えた。




つかつかと私のテーブルに近寄ってくる一ノ瀬さん。




「…撫で肩で悪かったな。」





怒り気味に私を見る彼はなんだか可笑しくて。





「…何笑ってんだよ!」






『だってー(笑)』





ため息をつきながら私の正面に腰掛ける彼も私がいつまでも笑っているのを見て




眉を下げて笑った。






…今日のランチは想像以上に贅沢かも。







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