エスパーなあなたと不器用なわたし
柴田くんと初デート
 十二月十日、日曜日。

 あたたかいベッドでまどろんでいると、枕元にあったスマホが光った。
 メール?
 開くと、相手は柴田くんだった。
 身を起こし、メールの内容に目を通す。 
『金曜日はお疲れ様。
 部長に送ってもらって、ちゃんと真っ直ぐ帰ったか?
 急だけど、今日の午後から映画に行かない?
 友達から招待券もらったんだけど、行く相手が見つからなくてさ』

 行く相手が見つからないから、仕方なくわたしを誘ってくれたんだね。
 それでも嬉しい。
 
 昨日、部長から彼の事を悪く言われて自分の気持ちに気が付いた。
 わたし、柴田くんが好き。
 
 すぐに返信すると、続けて待ち合わせ場所と時間の連絡が届いた。
 こうしてはいられない。
 滅多にしないおしゃれをして、柴田くんと初めてのデート。
 気合入れなくっちゃ。

 待ち合わせの映画館に着いたのは、約束の十分前だった。
 まだ彼は来ていない。
 今日の格好、変じゃないかな?
 こういう時には、年の近い姉がいたらなぁと思う。
 だけど、わたしは一人っ子。
 何か相談するとしたら、母しかいない。
 こんな事なら、もっとファッション雑誌を読んで研究しておくんだった。

「お待たせ」
 
どこから走って来たのか、息を切らした彼が立っていた。

「ううん。わたしも今来たところ」
「良かった。電車に乗り遅れて、駅から走って来た」
「メールしてくれれば良かったのに。ほら、開演までまだ時間あるし」
「いや、君を待たせたくなかったんだ」

 柴田くん・・・
 やっぱりいい人だ。
 思い切って、わたしから告白しちゃおうか。

「それじゃ、行こうか」
「うん」

 映画館のシートに身を沈める。
 上映まではまだ五分ほど余裕があった。
 自分の座席を探して歩く人があちこちに見受けられる。
 そのほとんどは女性もしくはカップルだ。
 映画が恋愛ものだから、男一人で入場するのは恥ずかしいのかもしれない。

「部長、ちゃんと送り届けてくれた?」
「えっ? うん。ちゃんと送ってくれたよ」
「そっか。実は心配してたんだ。お持ち帰りされたらどうしようってね」
「そ、そんな事あるわけないじゃない。相手は部長よ。わたしになんか興味無いって」
「そうだよな?」
「でも、心配してくれてありがとう」

 そんな話をしていると、時間が来て辺りが暗くなった。

 映画は、恋愛ものだった。
 一人の女性に、二人の男性が恋をして、三角関係になってしまう。
 一人はお金持ち、もう一人は苦学生。
 だけど、女性は苦学生を選んでしまう。
 お金持ちを選べば、何不自由なく幸せに暮らせたのに。

 わたしだったらどうするだろう。
 やっぱり苦学生を選ぶかな。
 自分の気持ちに正直になれば、やっぱり本当に好きなのは彼だとわかるから。

 映画館から出ると、いつも目がチカチカする。
 暗闇から日差しの世界へのギャップは相当なものだ。

「これからどこ行く?」

 わたし達は、近くのカフェでお茶をした。
 こうして男の人と二人っきりで向かい合い、お茶などした事が無いわたしはそれだけで周りの目を気にしてしまう。
 おまけにここは、オープンテラス。
 すぐ横を、見知らぬ人が通り過ぎてゆく。
 わたし達って、恋人同士に見えるのかな?

「智ちゃんって、会社じゃ俺以外の男とはあまり話さないよね?」

 突然名前で呼ばれてドキリとした。
 会社ではいつも塚本と呼び捨てなのに。
 でも、ここはさらりと流そう。

「わたし、人が苦手なの。特に男の人が。これまで女子ばかりの環境にいる事が多かったからだと思う」
「だから、この職場を選んだの? 男性社員が少ないから」
「それは関係ない。わたし、人見知りを克服したかったの」
「人見知り?」
「うん」
「俺に対してはそんな事ないじゃん」
「うん。柴田くんは平気。不思議と話せる」
「そっか。それじゃ、俺達ってフィーリングが合うのかもね」
「えっ?」
「どう? 俺達付き合ってみない?」
「柴田くん・・・」

 柴田くんからの告白。
 自分から告白しようと思っていたくらいなので、素直に嬉しい。

「宜しくお願いします」

 わたしはすぐに返答した。

 彼の顔がぱっと笑顔になる。
 そう。
 これ。
 彼のこの笑顔が好き。

 夜は、居酒屋で食事をして帰った。
 今日はあまり飲んではいない。
 彼としっかり話がしたかったし、酔っ払ってふがいない姿をさらけ出したくなかったから。
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