エスパーなあなたと不器用なわたし
さなちゃんへのお披露目
十二月十二日、火曜日。
 
 今日は、仕事帰りにさなちゃんと食事に行く約束をしている。
 彼氏が出来た事は既に報告済みだけど、さなちゃんと会って、直接いろいろ話したい。
 場所はさなちゃんに任せてある。
 わたしは、駅前の銅像の所へ七時に行けばいい。
 今日は朝からそわそわしていた。
 わたしがさなちゃんに彼氏の話を聞かせる日が来るなんて夢みたい。

 昼休みは、柴田くんと社食に行った。
 昨日も今日も一緒。
 もしも彼が営業とかだったら、こうして毎日お昼を一緒にという訳にもいかなかったはず。
 そういう面でも、同じ仕事をしていて良かったと思った。

「智、今日は何だかいつもと違うな」
「そう? きっと友達と食事の約束をしてるからかな」
「友達? まさか男じゃねーよな?」
「違うわよ。高校の時からの親友よ」
「そうか。俺も行っていい?」
「えっ?」
「智の友達に会ってみたい」
「えーどうかな・・・待って、メールしてみる」
 
 ドキドキした。
 さなちゃんにいきなり彼氏を紹介するのは勇気がいる。
 その反面、見てもらいたいって欲求も湧いてきた。

 メールの返事が来た。
 答えはOK。
 さなちゃんも楽しみにしてるとの事。
 その事を彼に伝えると、いつもの満点笑顔になった。

 昼休みが終わり、午後の仕事に入る。
 だけど、頭の中は夜の事でいっぱい。
 さなちゃん、柴田くんの事、気に入ってくれるかなぁ。

「おい、何ぼーとしてる」
「す、すみません」

いけない、いけない。
口調は優しかったけど、部長から注意されたのは初めて。

そう言えば、この前わたしがもう少し穏やかに注意して欲しいとお願いして以来、部長の怒鳴り声を聞いてない気がする。
部長、意識してくれたのかも。
良かった。
人が怒られているのを見ると、やっぱり嫌な気分だもん。
だけど、今のは完全にわたしが悪い。
気持ちを切り替えて頑張ろっ。

 午後七時。
 時間通りに待ち合わせ場所に行きたかったのに、やっぱり彼が遅くなった。
 どうやら彼は、五分や十分遅れても悪いとは思わないらしい。
 けっこう時間に厳しいさなちゃんは、始めからちょっと不機嫌?
 でも、話したらきっと彼の事、気に入ってくれるはず。

 結局、わたし達は、さなちゃんを十五分待たせてしまった。
 さなちゃんが予約してくれていたお店に入ると、窓際の席に案内された。

「ではあたらめて」

 わたしは二人の紹介をした。

「柴田です。さなちゃんって、智と全然タイプが違うね」
「良く言われる。実際違うわね。でも、お互いに持ってないものを見て楽しいわ」
「さなちゃん、彼氏いるの?」
「今は・・・いないかな」
「えっ? さなちゃん、本田さんとは別れたの?」
「先週ね。だってあいつ、洋服の趣味、ダサ過ぎなんだもん。アドバイスしても、全然変わってくれないし」
「落ち着いた男の人って感じで、わたしは好感が持てたけどな」
「やっぱ、十一歳も年が離れてたらダメね。話も合わないわ」

 十一・・・か。
 丁度わたしと部長の年の差と一緒だ。
 会社では鬼部長だけど、忘年会の時、家に泊めてもらった時に見た部長は雰囲気が違って話しやすかったし、年の差なんて感じなかった。
 柴田くんの事を悪く言うから、一瞬で嫌いになっちゃったけどね。 

「その点、俺達フィーリングばっちり合うよな?」

 隣に座っていた彼の腕がわたしの肩に回される。
 その様子をさなちゃんが見ている。
 こんな光景、後にも先にもこれが初めてだよね。
 
 お酒のせい?
 体が熱くなる。

「ちょっとお手洗いに行って来るね」

 わたしは火照った体を冷まそうと、席を立った。
 トイレの中は、店のざわつきとはまったく違って静かだった。
 蛇口から出る冷たい水を長めに手に掛け、水気を切って頬に当てた。
 冷たくて気持ちいい。
 お酒はそんなに飲んで無いのに、頬に赤みがさしていた。

 しばらくして席に戻ると、二人がすっかり打ち解けた様子で話していた。

 二時間ほどお店にいて、三人でタクシーに乗った。
 最初にさなちゃんを降ろし、次にわたしが降りた。
 後部座席から手を振る彼。
 それにわたしも手を振って答えた。

「ただいまー」
 
 キッチンから、洗い物を終えたお母さんが出て来た。

「お帰りー。さなえちゃん、元気してた?」
「うん、元気だったよ」
「今度うちにも遊びに来るように言っといて。ずっと会ってないから寂しいわ」
「そうだね。今、彼氏いないみたいだから、今度泊まりで来てもらおう」
「早く約束しないと、また次の彼氏が出来ちゃうわよ」

 よくご存じで。
 そうです。
 さなちゃんは、一ヶ月以上彼氏がいなかった事が無い。
 高校の時からずっと。
 どうして次から次ぎに彼氏が見つかるのか不思議でたまらない。
 そんなにガツガツ探してるわけでもないのに、なぜだかすぐに男が現われる。
 だけど、なかなか結婚にまでは発展しない。

 お風呂から上がって、ベッドの中でスマホをいじっていると、突然電話が鳴り出した。
 画面にはさなちゃんからの表示。

 なんだろう?
 さっきまで一緒にいたのに。

 わたしは電話に出た。
 
 えっ?
 
 さなちゃんからの電話は、あいつはやめとけという内容だった。
 理由を聞くと、わたしがトイレに行ってる間に口説かれたらしい。
 あんな軽い奴は智には合わない。
 きっと痛い目に遭うというものだった。
 口説かれたって、きっと彼は冗談のつもりだ。
 確かに話し方とか軽く見られがちだけど、優しいしわたしの事を大切に思ってくれている。
 いくら恋愛経験豊富なさなちゃんから言われても、わたしは彼と別れるつもりはない。
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