航空路
 どんな生き物でも集団行動を好む。それはたくさんの目があることで危険に気づきやすいし、一人に危険が及んでいるうちに、他の者が逃げられるからだ。
 こういうと薄情に思えるが、群生動物の全てがそうやって生き続けている。安全を確保するには、皆と一緒にいるのが一番なのである。
 しんと静まり返った一階を抜け、二階へ向かうため階段を一歩ずつ慎重にのぼっていく。
 全員手をしっかりと握ったまま、互いの足音を確認しつつ、少しずつ――
 階段をのぼりきると、僕は後ろを見た。全員いた。ホッと胸を撫でおろす。すると、笹田が進んでとせがむように僕を押した。理由は簡単だ。彼女は親友の山口が心配なのである。
 笹田の背後にいる秀喜が、「ごくり」と唾を飲む音が聞こえた。
「おい、何があっても手を放さないでくれよ」
 二階の様子を見るにあたって再度、秀喜が念を押す。彼が言わなくても全員そうするだろう。誰だって訳がわからず、こんな騒動に巻きこまれたくはない。
「行くよ」と皆に目で伝えると、笹田と秀喜と工藤は「うん」「おう」「よし」と違う口調で答えた。意見が一致したのを確認して機内を見る。
 そこには――僕たちがいた時と変わらない空間があった。
 担任の外川と宮本たちはいないが、笹田の親友である山口の姿は見える。他の生徒も席に座ったまま雑談していたり、テレビを見ている。
 何事もない機内を見て、僕は放心して立ち尽くしてしまった。先程までの恐怖が嘘のように消え去ってしまった。他の三人も同じらしく、呆然と突っ立っている。
 しばらく動きをとめていたが、工藤が思い出したかのように僕を見た。
「立花! 一階であったことをみんなに伝えないと!」
 工藤が僕を促す。
 しかし、僕は戸惑ってしまった。一階の状況は異常だが、二階は平穏なままの機内だ。ここで説明したところで信じてもらえるのだろうか? 混乱を招くだけではないのか? それに、すでに一階は、もとの状態に戻っているのではないか?
「ねえ、別に言わなくても――」
 僕が答えに困っていると、笹田が代わりに言った。見ると秀喜もそんな顔をしている。
 三対一と意見が分かれてしまい、秀喜から手を放した工藤は僕等を追い越して進んだ。
「じゃあ、直接、僕は機長やスチュワーデスに伝えるよ。君たちは好きにすればいい」
 工藤の強引な行動に、
「おい、待てよ! 慌てるのは、早いって!」
 秀喜が声を荒げて叫ぶ。
「じゃあ、どうしようって言うんだ?」
 足をとめた工藤が振り返って訊く。その瞬間――
「あっ!」
 工藤がいる隣の席に座っていた生徒が、居眠りをしているのか不意に倒れこんだ。工藤にぶつかったと思った時、僕たちの目を疑う光景が目の前で展開されていた。
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