航空路
「人? 馬鹿言うなよ。ここは空だぞ! 人が外にいるなんて――」
すぐさま、秀喜が笹田に反論する。ところが、彼は大きく目を見開くと硬直していた。気になって秀喜の視線をたどると、顔面蒼白の工藤がぶつぶつと呟く姿があった。
「工藤! まさか、お前も見たとか言うんじゃないだろうな!」
秀喜の問いに工藤は念仏のように、
「これは夢だ……これは夢だ……」と、繰り返している。
「立花! お前は見たのか? 本当のことを言えっ!」
興奮した秀喜は、いつも言う『タッチー』というあだ名ではなく、名字で僕に言った。
「影だけは見たよ。人の顔は見てないけど……」
「化け物だったか?」
「わからないよ。僕が見たのは影だけだし……けど、二人が見たのなら――」
幻覚ではない。それが僕の中の結論だった。
しかし、影に人の顔があったというのはどういうことなのだろうか。疑問が深まる。
「取り敢えず、今までのことを整理しようぜ。まず、宮本とそれを捜しに行った田淵が姿を消した。あと担任の外川。俺たちと一緒にきていたはずの鈴木とスチュワーデスも消えた。そして、今度は一階の客全員が一瞬のうちにいなくなってる……」
秀喜が動揺して座りこんでいる工藤と笹田を見降ろしながら、冷静に分析をはじめた。
怖がりの彼の心境から察すると、真相をつかむことで恐怖を拭いされるのではという根拠のない思いがあるのだろう。秀喜に促されるように立ち上がった工藤も、話に続いて口を開ける。
「そして、僕と笹田さんが大きな影にうつる、人の顔を見たんだ。あれは幻覚なんかじゃなかった! きっと、あの化け物がみんなを消しているんだ。いや、機内に入って一人ずつ食べているのかもしれない……口を大きく開けて丸飲みで」
「あー! もうっ! わけわかんねえよ! メアリー・セレスト号とかバミューダ現象とか、それに外を飛ぶ人の顔を持った化け物って……」
頭を激しく掻いた秀喜は、不意に顔を上げると僕を見た。
「立花……他の奴等はどうしたかな? ここの客が全員消えたなら、きっと二階も――」
秀喜の言葉に反応して笹田が立ち上がる。しかし、自分の体を支え切れずにふらついた。
直前で異常に気づいた僕は、彼女の身体を支えて倒れこむのをとめる。
「ありがとう……山口さんが心配で……けど、肝心な時に……私って駄目だね」
笹田の隣で寝ていた山口は、彼女の大親友で小中高校の長い付き合いだ。
いわば、僕と秀喜のような関係である。心配しないほうがどうかしているだろう。
「とにかく、もとの場所に戻ろう。そして、目的地に着くまでじっとしてるんだ」
僕が言うと、全員が頷いた。
すぐさま、秀喜が笹田に反論する。ところが、彼は大きく目を見開くと硬直していた。気になって秀喜の視線をたどると、顔面蒼白の工藤がぶつぶつと呟く姿があった。
「工藤! まさか、お前も見たとか言うんじゃないだろうな!」
秀喜の問いに工藤は念仏のように、
「これは夢だ……これは夢だ……」と、繰り返している。
「立花! お前は見たのか? 本当のことを言えっ!」
興奮した秀喜は、いつも言う『タッチー』というあだ名ではなく、名字で僕に言った。
「影だけは見たよ。人の顔は見てないけど……」
「化け物だったか?」
「わからないよ。僕が見たのは影だけだし……けど、二人が見たのなら――」
幻覚ではない。それが僕の中の結論だった。
しかし、影に人の顔があったというのはどういうことなのだろうか。疑問が深まる。
「取り敢えず、今までのことを整理しようぜ。まず、宮本とそれを捜しに行った田淵が姿を消した。あと担任の外川。俺たちと一緒にきていたはずの鈴木とスチュワーデスも消えた。そして、今度は一階の客全員が一瞬のうちにいなくなってる……」
秀喜が動揺して座りこんでいる工藤と笹田を見降ろしながら、冷静に分析をはじめた。
怖がりの彼の心境から察すると、真相をつかむことで恐怖を拭いされるのではという根拠のない思いがあるのだろう。秀喜に促されるように立ち上がった工藤も、話に続いて口を開ける。
「そして、僕と笹田さんが大きな影にうつる、人の顔を見たんだ。あれは幻覚なんかじゃなかった! きっと、あの化け物がみんなを消しているんだ。いや、機内に入って一人ずつ食べているのかもしれない……口を大きく開けて丸飲みで」
「あー! もうっ! わけわかんねえよ! メアリー・セレスト号とかバミューダ現象とか、それに外を飛ぶ人の顔を持った化け物って……」
頭を激しく掻いた秀喜は、不意に顔を上げると僕を見た。
「立花……他の奴等はどうしたかな? ここの客が全員消えたなら、きっと二階も――」
秀喜の言葉に反応して笹田が立ち上がる。しかし、自分の体を支え切れずにふらついた。
直前で異常に気づいた僕は、彼女の身体を支えて倒れこむのをとめる。
「ありがとう……山口さんが心配で……けど、肝心な時に……私って駄目だね」
笹田の隣で寝ていた山口は、彼女の大親友で小中高校の長い付き合いだ。
いわば、僕と秀喜のような関係である。心配しないほうがどうかしているだろう。
「とにかく、もとの場所に戻ろう。そして、目的地に着くまでじっとしてるんだ」
僕が言うと、全員が頷いた。