二百文字小説【小さな玉手箱】
《55.思い出の味》

 今年、夫が定年退職した。

 老後の楽しみは食事というので、退職金で高い炊飯器を買った。

「あなた、今の炊飯器ってすごいのね。おこげも出来るらしいわよ」

 慣れない説明書を読みながら、おこげをつくる操作を探す。

 そして炊きあがったご飯を一口。

 パリッとした触感と香ばしさがいい。

 夫は上機嫌で湯の子にした。

「またおこげが食べられるなんて思わなかったよ」

 もう味わうことはないと思っていた懐かしい味。

 仏壇にも置かないとね。
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