二百文字小説【小さな玉手箱】
《80.変わらぬ味》

 妻は友達と映画に行くそうだ。

「お昼は好きなものを食べて」

 鏡の前で化粧をしながら言う。

 子供も独り立ちし、定年退職をした私は、一人で食事するしかない。

 妻を送り出すと食事をしに外に出た。数十年ぶりに駅裏通りに入る。

 若い時に寄っていたそば屋が、変わらぬ佇まいで残っていた。

「いらっしゃい。食券を」

 言い掛けた店長の目が留まる。

「懐かしい顔だな。久しぶり。元気にしていたかい」

 時が経っても、月見そばは変わらぬ味。
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