契約結婚の終わらせかた




「な……誰がバカだ!」

「自分の体のことを正確に把握せず、無茶をして倒れて……どれだけの人が心配したのか。解っていないあなたはバカです! わ、私だって……どれだけ心配したか……」


今まで堪えてきたものが、一度に胸を震わせて涙を溢れさせる。


「あずささんも……葛西さんも。おばあちゃんだって心配したんですよ? きっと、もっとたくさんの人があなたを心配した。関係ないだとか、言わないでください!」


もう、むちゃくちゃだった。支離滅裂な言葉だって自覚はあるけど、今はとにかく伊織さんを休ませたくて必死になってた。


「これ以上無茶して、もっとひどくなって。もっと入院が長引いたらどうするんですか!
社長さんならどうなれば会社に迷惑かけるかくらい、きちんと把握してくださいよ」

「……悪いけど、碧ちゃんの言うことはもっともだよ、伊織。今回ばかりは僕も強引に休ませるつもりだった。無理に働こうとするなら、明日から会社に君の席はないって言おうとしたんだ」


葛西さんからの援護射撃は有り難かったけど、彼は恐ろしい脅しをにこやかに言いのけた。


「あ、ちなみに来月は夏休みを必ず取ってもらうから。これは決定事項。たまには家族サービスでもしなよ」


ニコニコと伊織さんの肩を叩いた葛西さんだけど、その目がやたら楽しそうだったのは気のせいだと思いたいです。


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