契約結婚の終わらせかた




「まずい」


プリンを口にした瞬間、伊織さんは顔をしかめた。


「えっ……」


自分でも試食をして、悪くない出来だと思ったのに。伊織さんはスプーンを置くと、冷蔵庫に向かいなにかを取り出す。


それは、栄養補給用のゼリー飲料だった。


彼は不機嫌そうに手にしたそれを開きながら、私に向かい言い放った。


「レシピを勝手に変えるな。それと、余計な飾りは要らない。おはる屋で食べたレシピで十分だ」

「は、はあ……でも、プリンだけだと栄養が」


ダンッ! と目の前で大きな音が立ち、ビクッと肩が跳ねた。伊織さんが拳をテーブルに打ち付けたからだ。


「余計なことをするな、余計なことを言うな。最初に言っておいたはずだが?」


剣呑な光が、伊織さんの青みがかった瞳に宿る。射殺さんばかりに睨まれて、小さく体が震えた。


「……寝ずに待つのもやめろ。押し付けがましく、鬱陶しい」


ゼリー飲料のみを口にした伊織さんは、ダイニングを乱暴な足取りで出ていった。


怒らせた……


それだけは何とかわかったけど、謝ることすらできなくて。不甲斐ない自分に腹がたつ。


(ごめんなさい……おばあちゃん、美帆さん。やっぱりうまくいくか自信がないよ)


私の小さな呟きは、誰にも聞かれず虚空に消えていった。

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