いきなりプロポーズ!?
 しかし、その暖かな愛撫(のようなもの)はすぐに終わった。背中とシーツの間にあった手のひらで急に持ち上げられて、私の上半身は斜めに傾いた。それをズン!と横に押して、まるでドラム缶をゴロンと転がすように私の体をうつぶせにさせた。松田さんならこんな手荒いことはしない。それともいつも優しい松田さんの野獣プレイ? “ほらほらたまには後ろからだよ、僕たち人間も動物なんだからね”、とか? “松田さぁんやだぁ!”と抵抗するふりをするか、“今夜はワイルドなのね、フフフ”と大人な女のふりであしらうか、考えただけで顔がほころぶ。そんな妄想を繰り広げつつも私はくっついた瞼をどうにかしてこじ開けた。その目の前には枕、ブラウン生地に金色の素敵な刺繍が施されている。いつものラベンダーの香りはしない。そうだ、旅行に来ていたんだ。アラスカ・フェアバンクス。今夜はオーロラを見にキャビンに行く。その前に仮眠を取ろうとして。


「……て。えっと」
「えっとじゃねえよ。寝るなら布団かぶって寝ろよ。風邪ひくだろが」



 耳元で聞こえるのはハスキーな松田さんの声ではなく、新條達哉のどすの利いた低い声。ガサガサと布団のまくる音が聞こえた直後、腰と胸の間の肋骨付近を大きな手が覆う。ということはこの手の持ち主は。


「☆★※@%$●○!!」


 ごろん。ドラム缶は再び仰向けにさせられた。そして目の前には新條達哉の顔。しかもどアップ。


「ひひ、ひ……ひ??」


 二重瞼の大きな目は私を見つめていた。奴は白いバスローブを着て、そのゆるい襟からは彼の鎖骨が見えた。頑丈で骨っぽい身体、浅黒い胸。


「ぎゃああ!! 襲うなら警察呼ぶから!」
「バカ」


 奴はなぜか、私の顔だけを見る。襲うつもりなら私の服を脱がせるとかするだろうに。


「な、なに」
「いや。目のやり場に困ってさ」


 それは私の台詞です、と思いつつ。困るから私の目を見つめるって変でしょ、どう考えても。達哉は掛け布団を私にふんわりとかけてぷいとあっちを向いてしまった。奴の白いバスローブを着た後姿。裾からはみ出したごついふくらはぎはソックスをはくのか、途中からは白い。日焼けしてるということは外で仕事をするガテンな職業なんだろうか。


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