いきなりプロポーズ!?
あ、アンタ……? 聞き違いかもしれない。私は目をなんどもぱちくりさせた。
「え、ええ。よろしくお願いします。真田愛弓と言います」
「俺、新條達哉(しんじょうたつや)。よろしく。本当にひとり?」
「はい」
「失恋でもした?」
「は……」
はい!、と言いそうになって言葉を止めた。何故、知っているの??
「え、ええっ??」
「だってそんな顔してるから。シケヅラ」
「シケ……ヅラ……」
隣の赤帽さん、新條達哉さんを見ると拳を口元にあててくすくすと笑っていた。帽子のてっぺんのポンポンもそれに合わせて小刻みに揺れている。まるで生き物のように意思を持って私をばかにするかのようだ。彼の身につけている帽子にまで笑われて私はぷっつんと緊張の糸が切れた。
「あの、失礼です!」
「アンタ面白いね。本当に失恋したんだ」
「な、適当に言ったの?」
「当たり前じゃん? アンタのこと何にも知らねえし。アンタのこと知ってたら俺ストーカーっしょ。マジで失恋してひとり旅? しかもアラスカまで??」
「もううるさいです。別にいいじゃないですか! それに初対面の人間にアンタだなんて」
「はいはい、サナダアユミ、ね。字はなんて漢字? 真実の真に田んぼの田? アユミは?」
「愛するに弓矢の弓ですけど」
「愛に弓……キューピッドじゃん。で、失恋旅行? マジ受けるわ。愛弓?? かっわいい名前」
「よく言われます、無駄に名前だけ可愛くてすみませんね」
新條さんは大きな身を屈めて私の顔をのぞき込んだ。二重瞼の大きな瞳、大きな唇。その唇がピクリとしたあと横に伸びた。イケメンに至近距離で見つめられてどきりとする。しかも松田さん似の顔。
新條さんの口角が片方だけ上がる。
「ああ、確かに」
「な……!」
彼は肩を揺らしてケラケラと笑いはじめた。それだけでは収まらないのか両手を腹に当てて、屈んだ。声には出さないものの爆笑している。初対面でなに、この男! むかつく……むかつく! もうこんなときは寝るに限る。
「じゃあ私、お先に休ませてもらいますんでっ」
「機内食が出たら起こすから」
「いりません」
「じゃあ俺食べるわ。じゃあ襲わないから安心して寝て」
「ふんっ!」
私は反対側の窓にもたれて目をつむった。なんだ、この旅の始まりは。すごく気分が悪い。でも飛行機なんて寝てしまえば隣なんて関係ない。ふて寝して忘れてしまえ……そう思っているうちに本当に寝入ってしまった。