いきなりプロポーズ!?
「誘われたなんて嘘だったの? からかったのね」
「誘われたのは本当だぜ。疑うなら聞いてくれば? さ、外にもどろう。オーロラが消えちまう」
達哉の手がゆっくりと私の顎に向かった。首に下りていたフェイスマスクをつまむとそれを口元に上げた。
「キスされると思ったんだろ」
「思ってない」
「まあ、キスしてるも同然だけど?」
「え、なんで? まさか私の寝てる間に」
「違うよ、今だよ今」
「今?」
「そのフェイスマスク、唇に当たってるだろ? それ、俺が使ってるやつだから」
ということは。私ははっとした。次の瞬間顔に火がついた。このミントの香りは奴が愛用しているマウスウォッシュの匂い?
「や、や……」
「そ。間接キス」
「や、じゃあこれ、いらない!」
「バカ。鼻毛も凍るぞ。俺と間接キスしてろ。行こう」
達哉は私の手を握り、ドアへと引っ張った。
足がもつれそうになりながらキャビンから飛び出す。空にはオーロラ、しかもこちらに近づいていた。弱い光でも肉眼で十分に確認できる。
「あ、愛弓さん!」
と、声をかけてきたのは青いジャケットの人。声で分かる、鈴木夫人だ。
「ねえ、写真撮らない? カメラお持ちでないんでしょう?」
「あ、はい」
「お二人の記念に。ほら」
夫人は向こうの三脚を指さした。ご主人が手を振っている。