いきなりプロポーズ!?

 でも目が自然といってしまう、達哉の背中。もういいや、奴は窓の外を見てるし、私が見つめていても気づかないだろうから。骨フェチ女子ではないけれど、こう、あの肩甲骨の張り出し具合とか、背骨から腰のラインの滑らかさとか、健康的でありながら艶っぽいのだ。

 と、安心して観察していると突然、達哉が振りかえった。


「☆*□★※・▼§☆!!」
「俺、シャワー浴びてくるわ。愛弓は先に下に行って飯食ってくれば? いつも俺とだと飽きるだろ」
「……」


 見つめていたのが(しかも怪しいまなざしで!)ばれたのかと思い、心臓が飛び跳ねる。言葉が出ない。でも足元の小さいランプがほのかについてるだけで部屋が暗いから確認できないはずだ。


「あ、ケンカ中だったな。口も利きたくねえんだろ? カギはオートロックだから愛弓が持っていていいよ。じゃあ」


 達哉はそういうと右手を軽く上げて浴室のほうに消えていった。トランクス1枚だったからすぐにシャワーの水音が聞こえた。

 私はひとつ大きなため息をついてから起き上がる。今日の朝食はひとりか……。でも当初の計画ならひとりだった。ご飯を食べるのも防寒着に着替えるのもオーロラを見るのも寝るのも。そう思えばひとりで食事なんて寂しいことはないはずなのに、どうも胸のあたりに風が吹き込んでスースーと涼しい。見捨てられた気分だった。段ボールに入れられて電柱の脇にこっそりと捨てられら子猫、通りがかりの人に抱きあげられて、ああ拾ってもらえる!、と期待した瞬間に、うちマンションだから無理だわ〜、と再び箱の中に戻されたらこんな感じだろう。ぐるるる……お腹は正直だ。いや、捨てられたかわいそうな子猫でも腹は空くはずだ。まずは顔を洗わなくちゃ。ベッドを降りてカバンから洗面道具を出す。洗面台使おうと浴室に向かう。猫なら前足をペロペロして撫でれば終わりなのに人間の健気な女の子はそうはいかない。

 でも聞こえてくるシャワーの音に足を止めた。達哉が使っている。仕方なしに私はミニキッチンのシンクで顔を洗った。


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