いきなりプロポーズ!?
§8 後悔、あとで流す?
 レストランを出た後すぐ、後ろから足音がした。ひょっとして達哉が追いかけてきてくれたのかと期待して振りかえると、目に飛び込んできたのは青いスタッフジャンパー。神山さんだった。にこにこして駆け寄ってくる。


「真田さん! じゃなかった、愛弓さん!」


 少し肩を落とした。愛弓だなんて気安く呼ばないでほしい。自分の迂闊な言動に大いに反省した。後悔しても遅い。今更“あなたに興味はありません”とも言いにくい。


「バー・カシュカシュの件ですが、来月、ご都合いかがでしょうか?」
「いつでもヒマです。彼氏もいませんし」
「でも宿泊を考えてらっしゃるなら、何曜日がご都合がいいですか? やはり週末がいいですか?」
「そうですね……土日がお休みの会社なので金曜日か土曜日がいいです」
「分かりました。ちょっと探しておきますね、ホ、テ、ル」


 神山さんはひとマス空けた意味深な言い方をして、ニヤニヤしながらレストランにもどっていった。あーあ、朝ごはん食べ損ねた。バカなことをしないで隅で食事を済ませてしまえばよかった。エレベーターに向かう。一度振り返るけど達哉はいない。エレベーターが到着して乗り込んで5のボタンを押す。扉が閉じきるまでレストランの入口を見ていたけど、シロクマの剥製が突っ立てるだけだった。まるで私を笑ってるみたいに。


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