緑と石の物語
赤と緑
(今日から三ヶ月、あなたと二人っきりで暮らすのよ。
どうぞ、よろしくね…!)

絆の家の扉の前で、ジネットはお腹の子供にそっと挨拶をした。

扉を開けて中に入る…
家の中はディサに聞いていた通りだった。
ここには、必要なものがすべて揃っている。
部屋の中は、どこも清潔で片付いており、質素だが雰囲気の良い家具が並んでいた。

大きな窓からは気持ちの良い風が通り抜ける。
庭もあるので、気分転換に植物の手入れをするのも良い。
必要な物が出来れば、外のポストに書いていれておけば届けてもらえるが、誰かに手紙を出したり受け取ったりということは出来ない。

ジネットは部屋の中や庭を一通り見て歩く。
出産前に寝てばかりいてはいけないということから、散歩ももちろん許されている。
ただ、ディサが送って来てくれた地点から先には行けないという規制はある。

今まであまり一人で生活したことのなかったジネットにとっては、少し違和感と寂しさを感じる環境ではあったが、数日も経つとそれにも少しずつ慣れてきた。

最近は赤ん坊がお腹の中でよく動くようにもなっていた。
その度にジネットは自分が一人ではないことを強く感じることが出来た。

あとほんの数ヶ月で、赤ん坊が産まれてくる…!

最愛のヴェールの子供…
いずれは、森の民の長となる大切な子供を産むのだということに、ジネットは女としての喜びと誇りを感じていた。

絆の家に着いた日から、ジネットは日記を書くことを始めた。
いや、日記というよりは、ヴェールと産まれてくる我が子への言葉を好きなように書き記した一方的な手紙のようなものだ。



『ヴェールさん、あなたは今、どのあたりにいらっしゃるのかしら?
研究の方はうまくいってますか?
一日も早く、あなたにお会いしたい!
でも、あなたはここへ戻ったら、もう今までのように自由に外の世界には行けなくなってしまうでしょう。
だから、今しかないのよね。
寂しいけど、私はお待ちしてます。
あなたも私と離れて暮らして寂しいと思って下さってるかしら?』

『私の愛する赤ちゃん…今日はとっても元気にお腹を蹴ってくれたわね。
そんなに早く出てきたいの?
本当にあなたはせっかちね。
そんなに焦らなくても、もうしばらくしたら出てこれるわ。
それまでに丈夫な身体を作ってちょうだいね!』
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