〜その唇は嘘をつく〜
降りる駅に電車が到着。
電車から降りる人の流れに乗って悠も私もホームに降り立ち、改札を出るとメールが届いた。
「あっ…楓だ」
《おはよう。柚月と悠さん見かけたんだけど、声かけるには遠過ぎて見てたらお二人さんいい雰囲気だったじゃない⁈今日の私、お邪魔虫のような気がするから二人で楽しんで来て…♡》
「えっ…」
画面を覗く悠が苦笑する。
「……だって⁈そんなことないのに」
「いいんじゃない。楓ちゃんがそれでいいなら俺は構わない。むしろ、気を使わなく済む」
えっ…冷たくない⁈
「じゃあ、別の日にする?」
「はぁっ、何言ってるんだ。おばさんには今日は就職祝いするから飯いらないって言ってあるんだ。2人でもお祝いするからな」
有無を言わせないと言うように人差し指を立て私に『わかったな』と指を指す。
「…わかったわよ」
今更、ご飯の用意をしてって言いにくいし、どこかで食べないといけないなら奢って貰おう。
「よし、仕事終わったら連絡しろよ」
「うん…」
『じゃあな』と手を上げあっという間に見えなくなってしまった。
マジ⁈
2人きりだよ…
まるで初めてデートするみたいに緊張してきた。
私、大丈夫かなぁ⁈
悠なのに…
ただ、ご飯を食べるだけなのに…
ドキドキしている。
朝起きて数時間しか経ってないのに、何回もドキドキしている。
絶対、私の心臓は1日中ドキドキしっぱなしだ。
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「おつかれさま」
『「おつかれさまでした」』
最後の患者さんを見送り終え北村さんがパソコンの電源を落としてる間に戸締まりをして待合室の電気を消すと麻里さんが受付に顔を出した。
「歓送迎会しようと思うんだけど、北村さんとゆずちゃんの来週予定が合う日にしようと思うんだけど、いつがいい⁇」
「私、北村さんの都合のいい日で大丈夫ですよ」
私の声とともに麻里さんが考えている北村さんを見る。
「主人に相談してみます。それからで大丈夫ですか?」
「えぇ、もちろん。北村さん愛されてるものね〜。いつも必ず、ご主人のお迎えがあるのよ」
北村さんの脇をツンツンして茶目っ気たっぷりでからかう麻里さんと『からかわないでください』と頬に両手を当て赤い顔を隠そうとする北村さん。
そんな、2人をかわいいと思ってしまい思わず口に出していた。
「お二人ともかわいいですね」