最初で最後の嘘




「……時田君?」



 不安そうに俺の袖を掴む瑞希の手を握った。



「……宿題、やるぞ」



 元には戻れない。


 瑞希の気持ちに。


 俺の気持ちに。


 気付いてしまったら、もう元には戻れない。


 この手を奏兄に渡すことなんかできない。


 俺は周りなんか無視して、瑞希の手を引っ張って自分の部屋へ逃げ込んだ。


 二人の空間しか、もう俺には拠り所がないから。


 三人で過ごす時間は、気付いた瞬間に終わりを迎えたから。
















 俺はそれでも冷静に現実を見極めていたと思う。


 奏兄がモテることも知っていたし、彼女がいることも知っていたし。


 小学5年のガキを恋愛対象になんて見ることなどないとわかっていたから、片思いに胸は痛めたけど、瑞希を取られてしまうなんて考えていなかった。


 相変わらず、瑞希は泣き虫で甘えたがり屋だ。


 それでも、成長して学校で泣くことは少なくなってきたけど、俺と二人の時は良く泣いたりする。


 それは学校でのできごとだったり、家庭のことだったり、奏兄とのことだったり。




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