僕は二度、君に恋をする


「言うて飲むのレッスンの後じゃん、合わせの前に買わせる意味は何なの?」

「だからぁ、冷め切ったのが飲みたいんだよ。」

「んなもん、甘ったるくて飲めんわ。」

「甘ったるいのがいいんじゃんさ。」


 その言葉には反応せず、僕はアップライトピアノの上に譜面を広げた。


「それで?今日は何楽章を持っていくわけ?」

「やっぱりもう一度、一・二楽章を見てもらいたいんだ。」


 これだから、こいつと弾くのはやめられない。

 普段は人を振り回してばかりの奔放娘だけれど、音楽の話になった途端、こいつはひとつ後輩なのを忘れさせるくらいに大人な主張をし始める。


「この前は確実だったけれど、あまりに遊びがなかった。和声感も主題の提示も正確だったけど、それ以上のことはなかったよね。」

「その前のレッスンは暴れすぎたからな。」

「だから今日は両方のいいとこ取りで。」


 合わせを小一時間して、僕らはレッスンに向かった。


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