ある王国の物語。『白銀の騎士と王女 』

51話、アレンの病について


「うおーーー!! 嘘だろ!? まじで見れんのか!?」
「アレン様を見てると動悸息切れが……」
「……お前 変態みたいだぞ」
「おい。こんな練習試合この先見れないんじゃないか??」
「今日を演習日に選んで、ラッキーだったよな!!」
「本当ですね。これはしっかり見て勉強しなくては」
「お前は、真面目だな〜」
「しっかり見ても、俺ら目で追えるか?」
「レオン殿下、格好いいなぁ〜」
「アレン様まじで綺麗だよね。今日、姉さんに自慢しよっ」


「静かにしろ!!」
 一気に話し出す騎士見習い、若い騎士達をパトリックは一喝した。


 静まった演習場。

「レオン殿下、アレン、用意はいいか。
 では…始め!!!」

 キメルダの声が辺りの空気を変える。



 キィーーン!!!

 辺りに身を切る金属音が鳴り響き、レオンとアレンにあった距離が一気に縮まる!

 二人の間には二本のサーベルのみとなっている。練習用は刃を潰しているとはいえ当たれば唯じゃすまない。
 それをレオンとアレンが持てば殺傷能力があるサーベルとなんら変わりない。



 くっ!! 重い!!! 気をぬいたら終わりだなっ、しかし、アレンは馬鹿力だなっ!!

 くそっ力比べになれば、俺が負けるっ!!
 一度離れるかっ。

 キィキィーーンーーン!!!

 腕がシビれるっ 。


  レオンは離れた直後に体制を低くし勢いを殺さないままアレンの懐に飛び込む。
 それが分かったのか 軸足をさばかれる 「くる!!!」と感じた時には、かなりの重圧が腕に身体にかかる。
 レオンは渾身の力で押しそして力比べになる瞬間に力をいなす

 サーベルが鋭い音をはなちつつ、レオンとアレンは一度距離を取った。


「「「「「「っうぉーー!!」」」」」

「「「「「すげぇーーー!!」」」」」

「「「「「オォォォッ!!!」」」」」


 皆が息をする事も出来ず、魅入る。

 レオンとアレンの息つく暇のない打ち合いは、身が震える。
 若い騎士や見習い騎士以外にもパトリック、フローレンス、そしてキメルダさえも手に汗握るものだった。


「アレン。やっぱお前はすごいなっ。まだ腕がシビれている」

「レオンは腕が落ちたんだじゃないか」

「はっ 今からだ!!」

 レオンの声と共に、二人の打ち合いが始まるっ!!!
 長い時間の打ち合いに、レオンもアレンも薄っすら汗が滲む。


 次、間合いに入れば 決まる。息をのむ演習場に金属音が響く。

 キィィィィーーンッーーー……


 時が止まる 金属音の後、連動するようにサーベルが地面を刺す。その音で静寂は切られた……。

 地面に刺さったのは レオンのサーベルだった

「勝負ありだ」

 キメルダの言葉の後は、割れんばかりの拍手に雄叫び、賞賛の嵐。


「………まさか、サーベルを弾かれるとは思わなかった」

「私は、始めからそのつもりだった。あまり試合時間を引き延ばしたくなかったからな」

「完敗だな」レオンはまだ痺れている両手を見ながら、苦笑する。


「いや、いい試合だった。礼を言う、レオン殿下。アレン」

 キメルダは二人に穏やかに微笑んで、軽く頭を下げた。

 レオンとアレンは練習用サーベルをパトリックにかえし、半円状になった闘技場の椅子に腰を下ろす。
 先ほどの練習試合を見て活気づく騎士達を見て、レオンは微笑む。


「彼奴らは、単純だな。この国を担う若者が育っていくのは嬉しい」

「私が負けて、次期国王のお前を勝たせた方が良かったか?」

 アレンが珍しく悪戯が成功した子供のような表情をしながら、レオンの方を見た。

「構わないさ。アレンの実力は皆が知ってる。ボルタージュ騎士団長との公式試合で団長を負かした方があまり良くないくらいだ」

「嫌味か?」

「もちろん、嫌味だ。俺はどちらかというとアレンと同じ分類のタイプだがらまだいいが、団長みたいなどう見ても筋骨隆々タイプの男が、お前みたいな綺麗系タイプに負けたら立つ瀬がないだろ、あれこそ空気を読めと思ったぞ」

「あぁ。あれは早く終わらせたかったからな。サーベルを手から外したらその時点で終了になるから、そこをついた」

「……早く終わらす必要があるか? 観客はなかなかの金を支払って見に来ているんだぞ。それも決勝戦だ。お前の考えがそもそもおかしい」

「生々しい斬り合いがお好きではなかったみたいで、エルティーナ様に『もう帰りたい』と言われたから、さっさと終わらせた」

 レオンは、新たな事実に絶句。

「お前は、おかしい!! 頭のネジが何個か飛んでいるんじゃないのか!? 神聖なる儀式の闘技場試合で、何故エルがでてくる!?」

「……そもそも私は出たいとは言ってない」


(「お前の頭の中は、エルエルエルエルエルって馬鹿か!? お前は馬鹿か!?」)

 口で言わないかわりに、レオンは頭の中で盛大にアレンに悪態をついた。


「……匂う……どうにかしたいな…」

 アレンの小さな呟きが聞こえてくる。

「んっ? 何も臭わないが……?」

 レオンは不思議に思い、一度空気を吸ってみるが、とくに変な臭いはしない。

「この場所ではなく、匂うのは私自身の事だ」
 アレンは嫌そうにレオンを睨む。

 二人は練習試合をする為、軍服の上着を脱いでいた。今は素肌の上に薄いシャツのみという出で立ちである。

 アレンは自身の腕を少し持ち上げ顔の近くに持っていき軽く匂いを確かめる。普段でも軽く匂う、大量の薬の投与からなる副作用の甘い香り。身体を動かしたり、汗をかくとより一層香りは強くなる。それが嫌で仕方ない。

「…かなり、匂うな。薬を止めるわけにもいかないし……はぁ………」

 アレンの投げやりな言葉にレオンは固まる。

「……アレン…薬って………まだ…飲んでいるのか?」

「当たり前だ。何を今更。私が病持ちなのは知っているはずだ。レオン、私は先に帰る。一度シャワーを浴びたいからな」

「ま、まて、まて。俺は治っていると思っていたぞ。動き回って大丈夫なのか? 病が治ってないって、まさかまだ吐血もあるのか!? 騎士なんてしてて大丈夫なのか!? それに……」

 レオンは次の言葉を飲み込んだ。その言葉はアレンの人格を否定するものになるからだ。
 レオンが最後まで言わなかった事が分かり、アレンが疑問を解消する為に話す。


「病は悪くはなっていないが良くもなっていない。吐血もあるがほぼ夜中だ。日中の生活に支障はない。
 断言はできないが心臓病の一種だから移ったりはしない。一応、エルティーナ様の護衛に付くまでに、色んな女と寝てみたが病が移った女はいなかったから、大丈夫だ。安心してくれ」

 驚愕に瞳を見開くレオンを残しアレンは早々とその場を離れる。

「レオン。先に帰る」


 アレンの言葉が遠くに聞こえる。

 遠くに見えるアレンの後ろ姿を見つめ、レオンはその場を動けない。淡々と話すアレンに何も言えなかった。言葉が見つからなかった。恐ろしくて、考えたくない事実が頭をよぎる………。

(「まさか、アレンはエルを愛しているのか?? まさかな……家族愛だよな……」)

 冷静になる為、レオンはゆっくり瞳を閉じた。

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