ある王国の物語。『白銀の騎士と王女 』
54話、アレンと見習い騎士/エルティーナの斜め上の考え方
コンコン、ドアを叩く音でナシルは明日エルティーナが着るドレスのコーディネート作業を中断する。
扉を開けると…夕方を過ぎ、もう寝静まる頃の時間帯であっても、美しくきっちりと軍服を着こなしているアレンとレオンが扉の前に立っていた。
「アレン様にレオン様まで、いかがされたのですか?」
ナシルの問いにすぐさま、レオンが答える。
「エルは、もう寝たのか? 遅くまでアレンを借りていて、怒っているかと思ってな。俺も一緒に謝りに来たんだ」
レオンの優しい言葉を聞いてナシルは穏やかに微笑む。
「先ほどまで、拗ねた顔で怒っていらっしゃいました。アレン様が夜になっても来られなくて。待つことを途中で諦めたみたいで、眠られました」
「……悪いな、アレン」レオンは斜め後ろにいるアレンに声をかける。
「いや、いい。ナシル、明日また来る。いつもの時間に」
アレンは簡潔にナシルに話し、それ以上は何も言わなかった。
「エルティーナ様は、寝たら忘れる方ですから大丈夫です」
柔らかく微笑むナシルの、あまりのいいようにアレンもレオンも軽く笑い「そうだな」と返事を返した。
きっちりと閉まったドアを目の前に、二人は苦笑する。
「しかし、寝るには早すぎるだろ。クルトでもまだ起きてる時間だ。エルは本当によく寝るな。眠り姫か……どこかの童話の世界だな、まったく」
レオンはくすくす笑っている。
「この頃よく眠られているな…眠りやすい季節だし、分からないでもないが…」
「まぁ、眠れるのは健康的な証拠だ。よく成長する訳だ。今度会ったら、寝すぎると太るぞっていってやろう! きっと眠らなくなるぞ、エルは単純だから」
「エルティーナ様は、確かに単純だが…。太ってはいない。冗談でも傷つかれるぞ。また無視されても知らないからな」
「あはははっ、言わない、言わない。あれ以上痩せたらもっと胸も尻も大きく見えるからな、エルはあまりにもウエストと足が細すぎるんだ」
「………………」
想像してしまう自分に嫌悪感を抱き、アレンは黙る。
「仕事を手伝ってもらって助かった、エルは単純だから。明日、すまなさそうな顔をして謝ったら許してくれる。アレンには懐いているし何をしても最後はエルが折れるよ、絶対。気にするな、気にするな」
レオンの軽い言葉に返事をかえし、そこで別れアレンも自室に戻る。
自室に戻るまでに若い騎士達とすれ違い、彼らの会話を耳にする。王宮で見かけた侍女の話や恋人の話、男性らしい生々しい話など…嫌でも耳に入ってくる。
聞けば聞くほど、先ほどのレオンの言葉が胸に刺さる。
ここ最近、エル様に触れる日が多くなり確実に麻痺していた。
今まで頑なに守ってきたエル様との境界線……。それがあやふやになっている今の現状に、尋常でなく危険を感じる。これ以上触れ合えば戻れなくなる。
腕にかかる心地よい重さ……
肌の温かさ……
柔らかい身体……
眠る息づかい……
どうしても先を想像し……我慢出来なくなってしまう……。
「気をつけないと……。彼女の側にいる事を自ら破棄せざる終えなくなる。絶対にあってはならない……」
アレンは一度、固く瞳を閉じ、心臓に楔を打ち込む。
取り返しがつかなくなる前に。前の距離間に戻る為に。……エルティーナに触れない事を己に固く誓った。
自室に近付いたあたりで、アレンの耳に若く溌剌とした声が聞こえてきた。
「やばかったよ。まじで柔らかくてさ、自慰とは断然違う!!愛し合うってこれかぁって思ったよ。 こんな気持ち初めてなんだ!! あ〜なんでお前達には分かんないだよ、この気持ち!!!」
「えぇ〜彼女いないから、わかんねぇよ。そんなもん」
「柔らかいんだぁ〜 いいなぁ〜」
アレンの自室近くで、かなり若い騎士達が青春真っ只中の会話で盛り上がっていた。
いつもなら目を合わせないし無視をする。若い騎士達はアレンに気づくと話を止め、壁に寄り敬礼する。ただ今日は皆が興奮し話をしているから、アレンに気がつかない。
甘く青い会話に笑みを浮かべる。
(「十一年前にエル様に会って、再会を果たすまでは私もこんな感じだった気がする……何もかもが初めての体験で、エル様との行為一つ一つに…胸が高鳴った。思い出すだけで幸せで幸せで、たまらなかった……」)
アレンはそんな自分を思い出し、年若い騎士の輪に足を向ける。
興奮して話をしていた騎士がアレンに気づき固まる。そして連動するように残りの二人も一瞬で固まったのを見て、彼らにアレンは甘く柔らかい微笑みを向ける。
「確かに愛している女性との触れ合いは極上の気分だな。それを超えるものはこの世にはないだろう……その大事な女性を守れるくらい、強くなれ」
アレンのまさかの甘く優しい言葉に、驚愕し皆が一気に顔を赤く染める。
アレンはそれだけを言うと、あとは何もなかったかのように自室に入っていった。
後に残された、若い騎士の三人はしばらく放心していた。
「なぁ…俺、夢みてるのか? そうだよな?? 今な、アレン様が話をしていた……?」
「……じゃあ、俺も同じ夢を見てたわ。アレン様が俺らに話しかけてきてさ、微笑んでた、まじで天使みたいだった……すっげー綺麗…だった…」
「……感…動……だ。…アレン様は俺の…気持ち……分かるって……いってくれた……
…アレン様でも……恋を…するんだ……」
ぼーとしている三人に気づいた他の騎士達が、どうしたのか聞いても三人は頑として言わなかった。
あれは俺たちに言ってくれた言葉だから言わない。話したいけど話したら効力が切れる気がして、三人は決して誰にも話さなかった。
扉を開けると…夕方を過ぎ、もう寝静まる頃の時間帯であっても、美しくきっちりと軍服を着こなしているアレンとレオンが扉の前に立っていた。
「アレン様にレオン様まで、いかがされたのですか?」
ナシルの問いにすぐさま、レオンが答える。
「エルは、もう寝たのか? 遅くまでアレンを借りていて、怒っているかと思ってな。俺も一緒に謝りに来たんだ」
レオンの優しい言葉を聞いてナシルは穏やかに微笑む。
「先ほどまで、拗ねた顔で怒っていらっしゃいました。アレン様が夜になっても来られなくて。待つことを途中で諦めたみたいで、眠られました」
「……悪いな、アレン」レオンは斜め後ろにいるアレンに声をかける。
「いや、いい。ナシル、明日また来る。いつもの時間に」
アレンは簡潔にナシルに話し、それ以上は何も言わなかった。
「エルティーナ様は、寝たら忘れる方ですから大丈夫です」
柔らかく微笑むナシルの、あまりのいいようにアレンもレオンも軽く笑い「そうだな」と返事を返した。
きっちりと閉まったドアを目の前に、二人は苦笑する。
「しかし、寝るには早すぎるだろ。クルトでもまだ起きてる時間だ。エルは本当によく寝るな。眠り姫か……どこかの童話の世界だな、まったく」
レオンはくすくす笑っている。
「この頃よく眠られているな…眠りやすい季節だし、分からないでもないが…」
「まぁ、眠れるのは健康的な証拠だ。よく成長する訳だ。今度会ったら、寝すぎると太るぞっていってやろう! きっと眠らなくなるぞ、エルは単純だから」
「エルティーナ様は、確かに単純だが…。太ってはいない。冗談でも傷つかれるぞ。また無視されても知らないからな」
「あはははっ、言わない、言わない。あれ以上痩せたらもっと胸も尻も大きく見えるからな、エルはあまりにもウエストと足が細すぎるんだ」
「………………」
想像してしまう自分に嫌悪感を抱き、アレンは黙る。
「仕事を手伝ってもらって助かった、エルは単純だから。明日、すまなさそうな顔をして謝ったら許してくれる。アレンには懐いているし何をしても最後はエルが折れるよ、絶対。気にするな、気にするな」
レオンの軽い言葉に返事をかえし、そこで別れアレンも自室に戻る。
自室に戻るまでに若い騎士達とすれ違い、彼らの会話を耳にする。王宮で見かけた侍女の話や恋人の話、男性らしい生々しい話など…嫌でも耳に入ってくる。
聞けば聞くほど、先ほどのレオンの言葉が胸に刺さる。
ここ最近、エル様に触れる日が多くなり確実に麻痺していた。
今まで頑なに守ってきたエル様との境界線……。それがあやふやになっている今の現状に、尋常でなく危険を感じる。これ以上触れ合えば戻れなくなる。
腕にかかる心地よい重さ……
肌の温かさ……
柔らかい身体……
眠る息づかい……
どうしても先を想像し……我慢出来なくなってしまう……。
「気をつけないと……。彼女の側にいる事を自ら破棄せざる終えなくなる。絶対にあってはならない……」
アレンは一度、固く瞳を閉じ、心臓に楔を打ち込む。
取り返しがつかなくなる前に。前の距離間に戻る為に。……エルティーナに触れない事を己に固く誓った。
自室に近付いたあたりで、アレンの耳に若く溌剌とした声が聞こえてきた。
「やばかったよ。まじで柔らかくてさ、自慰とは断然違う!!愛し合うってこれかぁって思ったよ。 こんな気持ち初めてなんだ!! あ〜なんでお前達には分かんないだよ、この気持ち!!!」
「えぇ〜彼女いないから、わかんねぇよ。そんなもん」
「柔らかいんだぁ〜 いいなぁ〜」
アレンの自室近くで、かなり若い騎士達が青春真っ只中の会話で盛り上がっていた。
いつもなら目を合わせないし無視をする。若い騎士達はアレンに気づくと話を止め、壁に寄り敬礼する。ただ今日は皆が興奮し話をしているから、アレンに気がつかない。
甘く青い会話に笑みを浮かべる。
(「十一年前にエル様に会って、再会を果たすまでは私もこんな感じだった気がする……何もかもが初めての体験で、エル様との行為一つ一つに…胸が高鳴った。思い出すだけで幸せで幸せで、たまらなかった……」)
アレンはそんな自分を思い出し、年若い騎士の輪に足を向ける。
興奮して話をしていた騎士がアレンに気づき固まる。そして連動するように残りの二人も一瞬で固まったのを見て、彼らにアレンは甘く柔らかい微笑みを向ける。
「確かに愛している女性との触れ合いは極上の気分だな。それを超えるものはこの世にはないだろう……その大事な女性を守れるくらい、強くなれ」
アレンのまさかの甘く優しい言葉に、驚愕し皆が一気に顔を赤く染める。
アレンはそれだけを言うと、あとは何もなかったかのように自室に入っていった。
後に残された、若い騎士の三人はしばらく放心していた。
「なぁ…俺、夢みてるのか? そうだよな?? 今な、アレン様が話をしていた……?」
「……じゃあ、俺も同じ夢を見てたわ。アレン様が俺らに話しかけてきてさ、微笑んでた、まじで天使みたいだった……すっげー綺麗…だった…」
「……感…動……だ。…アレン様は俺の…気持ち……分かるって……いってくれた……
…アレン様でも……恋を…するんだ……」
ぼーとしている三人に気づいた他の騎士達が、どうしたのか聞いても三人は頑として言わなかった。
あれは俺たちに言ってくれた言葉だから言わない。話したいけど話したら効力が切れる気がして、三人は決して誰にも話さなかった。