ある王国の物語。『白銀の騎士と王女 』

 窓の外は、明るい陽射しが大地を照らす。
 光を遮断する分厚いゴブラン織りのカーテンをものともぜず、その隙間から自らの光を浴びてもらう為、太陽は光を放つ。
 生きとし生けるもの全ての生命の神である太陽神は、いつもと同じ輝きの光を注ぐ。

「…うぅぅぅーーん! っと 」

 エルティーナは、浅く波うつベッドの上で、思いきり腕を伸ばしながら身体を起こす。カーテンから射し込む光の強さで、今日の天気が晴天であることを予感させる。

 今日は礼儀作法の授業が入っていたが、フルールお姉様とラズラ様とのお茶会があり、なくなった。先生には「もう教える事はありません」と言われたが…まだ不安になってしまう。

 フリゲルン家に嫁いで、残念に思われないか心配でたまらない……。幻滅されないように振る舞いたい……。本当に何も出来ないエルティーナの価値は、王女であるというだけだから……。

 頬を触ると涙の跡が分かる、この頃よく泣く自分に苦笑する。
 エルティーナはすぐ泣き自分を可愛くみせようとする女性が一番嫌いで憎かった。だから自分の涙の跡を力任せに拭う。

 舞踏会でエルティーナはいつも一人だった。背が高いエルティーナが少しきつく発言をすると、すぐ泣く令嬢達。そして決まって周りの殿方が慰める。「あぁどうされたんですか。大丈夫ですか」と。
 令嬢達は理由も言わず泣き続けるから、エルティーナがいつも悪者になる。
 泣いている令嬢をみた殿方達が「貴女よりか弱い女性を責めるなんて、失望いたしました」と言う。

「本当に…何度言われたかしら……」

 そして、その令嬢達は決まってアレンに擦り寄る。さっきまで泣いていたのに。私はエルティーナ様の一番の親友だと言う…。

「そもそも、私はそれほど酷い事を言ったかしら?? 皆で寄ってたかって、一日でいいから、お兄様をアレンを貸してほしいっていうから『ものみたいに、言わないで!』と言っただけだ」

 エルティーナはラズラの顔を思い浮かべる。ラズラ様のように対等に話せる友人はいない。まだ会って少ししかたっていないのに、大好きでたまらなくなっていた。


 考え事も飽きたので、エルティーナはベッドの上から降りる。
 しばらく部屋の中を歩いていたがナシルがこない。早く起きたのか? と不思議に思う。

 エルティーナは、何気なくドアに手を当てゆっくりと開く。
 広い造りの部屋にはナシルやキーナ達がアレンと話をしていて、何を話しているか気になって思わず寝室から出てしまう。



「今日は礼儀作法の授業ではなく、お茶会か?」とアレンは問う。

「はい。アレン様はご存知ではないのですか? フルール様とラズラ様とのお約束でございます」とナシルが。

「アレン様、朝食は軽くですのでこちらで用意いたします」とキーナが。

 報告していた時、ドアの軋む音が聞こえ、皆が一斉に音のほうに目を向ける。



「みんなで、何を話しているの??」

 エルティーナは普通にたずねた。しかしみんなが固まっているから、静かに返事を待ってみた。
 その後にかえってきたのは質問の答えでなくナシルの怒号だった。


「エルティーナ様!!!!!」

 最近聞いた事がないナシルの声と共に、ナシルが手に持っていただろう淡い水色のドレスが顔面に投げつけられる。

 地味に痛い。

 ナシルはそのままドレスでエルティーナを包み、引きづりながら寝室に戻される。
 鼻息荒いナシルに戦々恐々しながら、顔面にぶつけられたドレスから顔を出す。

「なんて格好で出てくるのですか!!! ご自分の姿をご存知でしょうか!?!?」

 涙声で怒鳴るナシルにエルティーナは、頭から被っていたドレスを床に落とす。

「…………………あっ………………」

 気づいた時にはすでに時遅し。昨日の夜、ナシルの用意していた夜着が暑くて、夜中に夜着を脱いだのだった。
 そして今は乳首の淡い桃色から蜜園のぷくっと膨れた禁断の割れ目まで、ほぼ透けている状態。薄い薄い布とは言いがたい布たった一枚の姿だった……。
 今更ながら凄い格好で寝室を出たとエルティーナは理解した。


 取り残された面々は、今起きた衝撃に立ち直っておらず。絶句したまま。

 首まで真っ赤になったキーナとメーラルは、先ずはこの部屋から出ようと。「朝食の準備をしてまいります」と大声で叫びながら部屋から出た。

 もちろん、しばらく歩けないアレンの為にだ……。


 明るい部屋の中で、誰が見ても完全に勃ち上がっていると分かる股間部。硬い鞣し革のトラウザーズを物ともせず、ドクッドクッと脈打ち存在を示す立派過ぎるアレンの男の象徴。
 立っているとトラウザーズが張って股間部が痛い為、腰を折りうずくまる。

 アレンはうずくまりながら真っ赤になった顔を両手で覆う。

「……エル様……勘弁してください……」



 エルティーナは、先ほど顔面に投げつけられた淡い水色のドレスを着て寝室を出た。

 ナシルはまだ悪魔のような形相である。ドレスを着せ付けしていた間、ずっと怒鳴られていた。

「ナシルは何でそんなに怒るの! 裸同然で出たのは悪かったって分かるけど……そんな怒鳴らなくても…」

 凄い顔でナシルが睨んでくる。だからエルティーナは弁解を試みる。

「部屋に居てたのはキーナとメーラルとアレンだけよ?
 キーナとメーラルは同性だから大丈夫だし、女性経験豊富なアレンは、私の裸なんてさほど興味もないわよ」

 ナシルからの言葉は何一つなく、悪魔の顔のまま睨まれる。

 エルティーナはナシルの大袈裟な態度に、恥ずかしい事をしたと思う気持ちより、それ以上に反抗心がむくむく湧いてきてしまう。

 いかん、いかん。と思いながら食事の前の口上を述べ、机に並べられた小さくカットされた果物を食べていく。



「ねぇ。キーナ、アレンは??」

 エルティーナのなんとも間の抜けた言葉に一同は呆れる。

「……外で…お待ちです」

「なんで?? 部屋の中で待ってたらいいわ。呼んできてよ。廊下は陽が当たらないから寒いし」

「ぃやぁぁぁぁ! ナシル痛いわ! 頭をグリグリしないで!!」

「エルティーナ様は悪魔ですか!? 静かにお食事をなさってください!!」


 悪魔の顔のナシルから、悪魔と言われたエルティーナ。
 何故かキーナもメーラルも味方をしてくれず、エルティーナはむすっとしながら色とりどりに並べられた果物をつついた。


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