ある王国の物語。『白銀の騎士と王女 』

 穏やかなお茶会は終わる。

 ラズラからの申し出で、今日も一緒にエルティーナのベッドで寝る事になった。

「また、お邪魔します!! ごめんなさいね。寝づらくはない?」

「はい! 一人では寂しいですし、一緒に寝て頂けるのはとても嬉しいです!」

「あらっ。寂しいなら、アレン様に添い寝してもらったら?」

 またも真っ赤になるエルティーナを見て、ラズラは物凄く満足気だ。

「もう! ラズラ様! 恥ずかしのでやめて下さい!!」

「恥ずかしいって、別に普通じゃない。私とも、してるじゃない。なぁに…違う事を想像してるの〜」

 ラズラの言葉にエルティーナは「もう!! ラズラ様ったら!!!」と言いながら……涙が溢れ出ている。
 エルティーナの表情は笑っているから、自分が泣いている事に気づいてないのだ。


「あ、ごめんね、ごめんね、泣かないで!! 言い過ぎだわ。ごめんね…」

 必死に謝るラズラに言われ、エルティーナは初めて自分が泣いている事に気がつく。
 手を頬に置いて驚く。今のはラズラの揶揄いだと分かってるし、いちいち反応する自分が恥ずかしくて面白いのに、涙が止まらないのだ……。


「あはっ。泣いてる……何で……別に悲しくないのに……」

 そう言いながら、ラズラに申し訳なくなりシーツに顔を埋める。止まらない涙にエルティーナ自身が、ラズラ以上に驚いているからだ。

「エルティーナ………」

 ラズラはシーツに埋まっている頭を優しく撫でる。

「ねぇ、聞いて。エルティーナ。ヘアージュエリーはね、勿論アクセサリーなんだけど、昔から言い伝えがあって。
 本当の用途は、愛し合う夫婦が来世でも巡り会うように……再び会えますようにって。お互いの髪を固く結び合わせて作るのよ。
 ねぇ……内緒で作らない?
 アレン様から沢山、髪を頂いたし。勿論普通にアレン様の髪だけで作るヘアージュエリーは作るとして。
 誰にも内緒で、エルティーナの髪とアレン様の髪を固く結び合わせて作るのよ。ヘアージュエリーを。
 絶対に普段は付けれないけど…エルティーナは来世でもアレン様に会いたくない? 今世では貴女はフリゲルン伯爵に嫁ぐけど、来世はアレン様と夫婦になればいいじゃない?? そんな未来を想像するの、楽しいのではなくて?」

 ラズラの言葉にシーツに沈めていた顔をゆっくりと上げる。

「じゃん!! ナイフを隠して持ってきちゃった!! 今。この場でドアが開いたら私、殺人鬼みたいよね。恐っ」

「本当に……来世でも……会える?」

「会えるわ!! だって、そういう意味合いのジュエリーなんですもの。いつもは絶対に付けれないけど、寝ている時とかは大丈夫なんじゃない?
 エルティーナの髪とアレン様の髪は金色と銀色で、とても綺麗な配色になるわよ!!」

 涙はいつの間にか止まっていた………。

「ヘアージュエリー、作りたいわ。私、アレンと来世でも会いたい。絶対に会いたいわ!!」

「決まりね!! じゃあ、少し切るわね。後ろを向いてちょうだい」

「お願いします!!」


 エルティーナは元気な返事を返して、ラズラに背中を見せる。
 とても素敵なジュエリーだ。ラズラの話す内容が本当だったら嬉しい。今世では無理だったが来世では…エルティーナの事を妹とかではなく、一人の特別な女性として好きになってほしい。


「はい、切れたわ。これくらいあれば大丈夫。あまり沢山切るとバレるし…アレン様の髪の分量を多めにして編み込んだらいいわよ。その方が抱きしめられてる、って感じがするのではないかしら」

「ぅうわぁぁぁ…!! ……流石…ラズラ様、詩的で素敵です。……そんな恋人どうしみたいなこと…した事ないから。想像するだけでも……嬉しいし楽しいです。
 あっ! でも物語はあり得ないから面白いし、感動するんですよね。納得です」

「ねっ、少しだけ組んでみましょう! 絶対に貴女の髪とアレン様の髪は合うわよ!!」

 ラズラの提案にドキドキが止まらない。高鳴る胸の鼓動を全身に感じながら、アレンと自分の髪をジュエリーの土台に並べていく…。

「わぁぁぁ、綺麗…………」

「ほんと綺麗ね………普通に私もジュエリーとして欲しいくらいだわ………」

「……あ、…ありがとうございます……」

 土台に交互に並べられたアレンの髪と自分の髪を見て、少しだけほんの少しだけ、優越感に浸ってしまう。

「私の髪って……アレンの髪に合うんだわ…」

 ラズラは、作りかけのヘアージュエリーを眺めているエルティーナに声をかける事なく、布団にもぐり眠りについた。

 エルティーナは作りかけのヘアージュエリーをたっぷりと眺めたあと、少しだけ作業を進める。

 瞼が重く感じ、そろそろ眠る為に作業を中断する。隣でラズラが寝息を立てているのを確認してから背を向ける。

 エルティーナは手の中にあるアレンの髪に、淡く桃色に色づく唇を少しだけ押し当てる………。唇には柔らかい羽根のような感触がした。

 エルティーナの甘い甘い時間は、ゆっくりと流れていった。




 朝、目覚め…二人は笑い合う。

「おはよう、エルティーナ」
「おはようございます、ラズラ様」

 衣服、髪を整え、朝食をとる。幸せな時間は足早に過ぎ去っていき、ラズラとの別れの時間になった。

「大々的な見送りは、逆に危ないから。王宮からは静かにでるつもりなの。エルティーナとは、ここでお別れ!! また建国記念の日にボルタージュ国に来るわ」

「はい。お気をつけて!!」

「うん! エルティーナも元気でいてね!!」


 エルティーナは可愛らしく手を振っている。
 満面の笑みで見送るエルティーナに、ラズラは何故だか分からないが、離れたくない離れてはいけないと強く思ってしまう。



 奇しくも……ラズラの勘は当たってしまう。

 ラズラがエルティーナの笑顔を見たのは、この時が最後となった。



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