彼に惚れてはいけません

「助けて欲しいときは言えよ。由衣と一緒に助けてやるから。それと、これ」

吉野さんはスマホを出した。

「この猫のカバー、太郎がくれたから、これからもつけとく。これも、由衣がいいよって言ってくれたんだ。いい女だろ?」

弥生さんは何度も頷いた後、私を見た。

「吉野さんが選ぶ女性ってどんな人だろうってずっと思ってました。由衣さんのような女性なら、吉野さん幸せになれますね」


映画ならこうはいかない。

“泥棒猫”とか行って女同士けんかになり。男はひとりの女性を選び、走り去る、みたいな。


「由衣、こういうことなんで。弥生は俺の部下だから」

「私が言うのもおかしいですが、由衣さん。吉野さんのことお願いします」

頭を下げられて、私はただただペコペコして

「はい」と答えることしかできなかった。


「私、吉野さんがいつか私を好きになってくれるかなって思ってました。でも、待ってるだけじゃだめですよね。好きなら好きで、頑張らないと」

弥生さんは吹っ切れたようにそう話し、吉野さんも笑って答えた。

「そうそう。会いたい会いたいって由衣はうるさかったからな」



本心はどうかわからないけど弥生さんはとても晴れ晴れした表情をしていて、私は救われた気持ちになった。


誰かが幸せになる時、必ず誰かが涙を流す。

それが映画から学んだこと。


私と吉野さんの間にあった壁は、消えた。

私は弥生さんへのモヤモヤした思いが消え、ようやく“彼女”になれた気がした。




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