御曹司さまの言いなりなんてっ!

 意識を取り戻したあたしの目に、見慣れない真っ白な天井と細長い蛍光灯が見えた。

 頭や、首筋や、腋の下を一斉に保冷剤で冷やされて、まるで魚の氷締め状態で点滴を受けている自分の状況を、いまいち把握できない。

 ぼうっとした頭で、ベッドの横に立っている若い女性の看護師さんの穏やかな笑顔を見上げた。


「気がついた? 気分はどう?」

「ここ……どこですか……?」

「市民病院の救急外来よ。あなたはね、熱中症で倒れて搬送されてきたの。分かるかな?」


 あぁ、そうか。そうだ。

 あたしは誰もいない道で部活帰りに倒れてしまったんだった。


「処置が早くて良かったわ。あなた意識が無かったから、ちょっと危なかったのよ」


 看護師さんの言葉で、どんどん記憶が甦ってくる。

 うん、そうだ。あたし確かに危なかったのよね。

 わりと本気で死を覚悟したけど、無事に助かったのね。ああ良かった。死なずに済ん……。


「…………!」


 安堵と共に、全ての記憶が思い出される。

 口移しで飲まされた林檎ジュースの味も、彼の唇の感触も生々しく甦った。

 あたし、通りすがりの見知らぬ他人に、ファーストキスを奪われたんだ!
 
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