御曹司さまの言いなりなんてっ!

「起きてくるのが遅いから、また体調崩したのかと思ったぞ」

「も、申し訳ありません。体調に変化はありませんので大丈夫です」

「そうか。じゃあ俺はこれからすぐ外出する」

「は? あ、ああ、昨日キャンセルしてしまった、夏祭りの打ち合わせですね?」

「いや、内装の件で急なトラブルがあった。そっちを片付けるのに業者を数件、回らなきゃならないだろう」

「そうですか」

「その後で真っ直ぐ役場に回る」


 ポンポンポーンと、実務的な会話が続く。

 部長の態度が実に淡々としているから、私も淡々と対応せざるをえない。

 スマホをチェックしながら冷静に連絡事項を告げる部長の表情は、いつも通りすごくカッコイイんだけど。

 だけど……。


 けど、あまりに素っ気なくないですかぁ!?

 別に私だって、なにも朝からそんなにイチャイチャしたかったわけじゃないけど!

 でも、さすがにもうちょっとくらい色気があってもいいんじゃないか!?

 と思うのは、女の我が儘?

 それでも仕事でトラブルが発生したなら仕方がないと、私は強引に気持ちを切り替えた。

 ふたりの関係云々で頭にお花を咲かせるより、そっちを優先させるのは社会人として当然だ。


「わかりました。そんな事情とは知らずに、お待たせして申し訳ありませんでした。では行きましょう」

「いや、お前はいい」

「……はい?」

「お前は来なくていい。俺ひとりで行く」


 そう言い捨ててサッサと玄関に向かって歩いていく部長の後を、私は慌てて追った。

 ちょっと、あたしは来なくていいってどういう意味!?
 
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