御曹司さまの言いなりなんてっ!
タキとおままごとのような、楽しく初々しい新婚生活を過ごしたよ。
でも……そんな平穏な日々はすぐに終わりを告げた。
まるで私達の仮祝言が済むのを待っていたかのように、タキの父親が病に倒れてしまったんだ。
あっという間に衰弱して、ついに医者からも見放され、もう先は長くないのが明らかだった。
本人もそれを自覚していたけれど、気丈な人だったから取り乱すことはなかった。
逆にオロオロ慌てふためく家の者達を叱責して、病床の上から今後の手配を明確に指示したんだよ。
まず真っ先に、すでに若主人として周知されていた私に店の全権を譲り渡す手配をね。
そして妻と娘には土地と屋敷を遺し、あの人は駆け足のように去って逝ってしまった。
国が戦争に負けたせいで全てを失った私は、やっと名実ともに店の主になったんだ。
それからは目の回るような忙しさだった。
ちょうど神武景気から始まる好景気の波に日本中が湧いている時期で、こんな田舎にもその余波が届いていた。
この空前絶後の運機を逃すまじと、私は目一杯に商売の手を広げたんだ。
時期が良かったんだろうね。出す手出す手の、全部の勝負事に面白いように勝ったんだよ。
おかげで寝る間もない忙しさで、タキとの入籍は後回しのまま、彼女とはすれ違ってばかりだった。
ヘトヘトに疲れていた私は、それでもとても充実していた。
毎日毎日、ほんの短い睡眠をとるために横になりながら、いつも思っていた。
『今日も私は勝った』と。