御曹司さまの言いなりなんてっ!
「この前の部屋、空いてますよね?」
部長の返事も待たずに、私は前回泊まった部屋のドアを開けてサッサと入り込み、ベッドの上にバッグを置いた。
部屋の出入り口に突っ立ったままの部長が、ようよう声を絞り出す。
「……おい」
「晴れて良かったですね。雨だとせっかくのお祭りが台無しですから」
「おい」
「皆さん、喜んでくれると良いですけど」
「おいって」
「ところで玄関前のスペース、ちょっと使わせてくださいね」
「おい、意図的に無視してるだろお前! いったい……!」
「あ、ちょうど来たみたいですよ?」
「来たって何が!?」
「毎度どうもー! フェスティバル・カンパニーですー!」
「はーい、いま行きまーす!」
私は呆気にとられている部長の横をすり抜け、声のする方へパタパタと走った。
お祭り用のはっぴを羽織った男性がふたり、玄関先でニコニコと愛想良く微笑んでいる。
「遠山様ですか? 本日はご用命、ありがとうございます!」
「お疲れ様です。無理を言ってすみませんでした。設営は玄関外にお願いしますね」
「はい! わかりました!」
男性達は表に停めてあるトラックに駆け寄ると、荷台から大小さまざまな荷物を下ろし、テキパキと梱包を解き始める。
その様子を見守っている私の腕を、部長が後ろからグイッと引っ張った。