御曹司さまの言いなりなんてっ!

 当時、片想いしてた男の子の横で毎日「金! 金!」って呼ばれるのは辛かった。

 口の悪い男の子なんて、「キン◯マ」とかモロに放送禁止用語でからかうし。

 図工の時間なんて、いつも絵の具で肩に桜のイタズラ描きをされていた。

 ……全員もれなく、三倍返しにしてやったけど。


「ははは、金さんか! お前にピッタリだな!」

「笑わないで下さいって言ってるでしょ!」

「いや、すまんすまん! もう笑わな…… ぶははは!」

「部長ーー!」


 本気で睨みつける私の目の前で、部長は手でお腹を押さえながら本気で笑っている。

 肩を揺すって、両眉を下げて、白い歯を見せながらまるで少年みたいな顔をして笑っていた。


 その楽しそうな姿を見ていたら、なんだか私の怒りは収まってしまって、逆に、とっても嬉しくなってしまって。

 ああ、部長が笑ってくれて良かった。なんてことを不覚にも思ってしまった。

 それが悔しくて、恥ずかしくて、私はワザと機嫌を損ねたような顔をして見せながら、シャンパングラスの中身をグイッと口に含む。

 爽やかで甘酸っぱい林檎の味が、口いっぱいに広がった。


「あ……これ、林檎」

「シードルだ。香りも味も、甘さも丁度いいだろう? 俺のお気に入りなんだ」


 ようやく笑い止んだ部長が、シードルを口に含んで美味しそうに味わっている。


「飲み物は、林檎の味が一番好きだ。特別なんだよ。林檎はね」


 そう言って彼は、どこか意味深な目をして私を見た。
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