御曹司さまの言いなりなんてっ!

 比べて一之瀬商事には、社員食堂はもちろん、他にも社員が利用できる多種多様な施設が整っている。

 ビジネス書から流行りのマンガ本まで揃った図書室。

 セラピストを配備した、まるでイギリス庭園のようなリラクゼーションルーム。

 マッサージチェアを完備した仮眠室や、働くお母さんのための託児所も。


「これからは、病児保育にも取り組む予定みたいよ?」

「まるで楽園みたいね。こんな会社が世の中に本当に存在してるなんて信じられない」

「その楽園の制服を今自分が来ていることすら、信じられないよ」


 動きやすそうな夏用制服姿の瑞穂が、笑いながらそう言った。

 昨今では女子社員の制服廃止の企業も多いらしいけど、ここでは根強くユニフォーム制度が残っている。


「オシャレが楽しめないって意見もあるけど、あたし、こっちの方が楽。結構動き回る仕事だし」

「そうだよ。制服の方が絶対、楽だと思う」


 一応私の仕事は事務職の範疇外ということで、制服は支給されていなかった。

 だから何着か夏用のスーツを買ったし、着回しのきくシンプルなトップスやボトムスを数枚買って凌いでいる。

 これがまた、まだ仮採用でこれからどう転ぶか分からない身としては、実に手痛い出費だった。


 私達はおしゃべりしながら食堂内をウロウロと歩き回って、なんとか空席に滑り込む。

「いただきます」とお味噌汁を一口啜って、さっそく瑞穂が聞いてきた。
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