強引上司の恋の手ほどき
「ご馳走さまでした。いつもご馳走してくれてありがとう」

店を出たところで、中村くんに食事のお礼を言う。

「いいんだよ。これでも俺、出来る営業マンだから」

たしかに中村くんのいう通りだ。大阪支社時代からよく聞く名前だった。本社の営業一課に配属されてからも営業成績を伸ばしている。

「でも、あのいつも出してもらってばかりじゃ悪いデス」

「気にすることないよ。女の子は黙っておごられてるのがかわいいんだから」

そんなものなのかな……。何でも深く考えてしまうのは私の悪い癖なのかもしれない。

「それに……お礼だったら、こっちのほうがいいな」

彼が私の手を優しく包んで、店の陰に引き込んだ。その瞬間、彼の柔らかい唇が重なる。

「んっ……」

唇がふれるだけのキスのあと、お互い見つめ合う。そしてもう一度彼が顔をかたむけたとき、私は目をつむって彼を受け入れた。

長いキスのあと、中村くんが私の顔を覗きこんだ。

「今日はどうかな?」

その言葉の意味がわかって、私ははっと息をのんだ。

どうしよう……どう答えたらいいんだろう。二度目のチャレンジするべきなのかな?

グルグルとひとり悩んでいると、バッグの中でスマホが震えた。

「あっ……お母さん。電話出てもいい?」

「うん」

いつもは面倒だとも思う母の電話も今日ばかりはタイミングの良さに感謝した。

ごめんお母さん!ちょっと助けて。
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