強引上司の恋の手ほどき
「本当にごめんなさい。せっかく誘ってくれたのに」
「いや、俺こそ待つって言ったのに我慢できなくてごめん。いいから気にしないで」
私の腕をポンッっと叩いた。
「ありがとう」
真摯に私と向き合ってくれている相手に嘘をつくなんて最低だ。だけど……今日だけはなんとか許してほしい。
「この時間だとタクシーに乗るより電車のほうが早いかな? 駅に向かおう」
「うん」
気まずい雰囲気を纏いながらふたりで駅に向かった。その間会話はほとんどなく気まずい思いをしながら駅までの道のりを歩いた。
怒ってるよね……。
ため息を付き添うになりあわてて引っ込めた。
「じゃあ、気をつけて。お母さんによろしく」
別の路線を使う中村くんは、改札まで私を送ってくれた。
「はい、……おやすみなさい」
もう一度謝ろうかと思ったが、何度も蒸し返すみたいになるのでやめた。私は定期入れを改札にかざすと中に入ってホームへと向かう。
途中振り返って中村くんを見たけれど、彼はすでに私に背を向けて駅を出て行くところだった。
「はぁ……」
大きなため息をついてホームへ向かう階段を登った。