強引上司の恋の手ほどき
「ほら、歌ってる」

「ひっ!」

急に話しかけられて驚いて入り口を見ると、ニヤニヤと笑う郡司さんが立っていた。

「いつも、ちょっとだけ音程が外れてるんだよな。だからすぐに誰かわかる」

「すみません……」

たしかに、歌うのは好きだけど上手いわけではない。

「それに、俺の目の前で俺以外の人間にチョコ渡すってどういうことだよ?」

「どういうって……美月さんですよ?」

「だとしても、俺より先にもらってるのがムカつくんだよ」

なんてワガママだろうか。でもそう言ってもらえるのは嬉しい。

「じゃあ、来年は課長に一番に渡しますね」

「あぁ、そうしてくれ」

満足したような笑みを浮かべた課長がなにか思い出したのか、話題を変えた。

「それより、今日の約束少し時間ずらしてもいいか? 野暮用ができた。そう時間はかからないと思うから、どっかで時間つぶしてくれ」

「はい。いいですよ」

「俺も終わったら直ぐに連絡するから。じゃあな」

軽く手を上げて、給湯室から出て行った。
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