強引上司の恋の手ほどき
日芝では、彼は次期社長候補だ。

いくら仕事とプライベートは別だと言っても、そういう風に思わない人も社内にはいる。だから私はなるべく彼と直接係ることのない営業所への勤務を申し出たのだ。

「駄々こねてないで早く準備してくださいね」

私はエプロンをつけるとキッチンへと向かった。

だいぶん使い慣れた彼の部屋のキッチンで、最近やっとまともに作れるようになったオムレツを焼いた。

少し端っこがグチャっとなったけれど、ケチャップで誤魔化せばなんとかなるだろう。

集中していると、着替え終わった郡司さんが私を背後から抱きしめてきた。

「もう、汚れちゃいますよ」

「ん〜そうだな」

適当な返事をしながら、私の耳元に唇を寄せてきてくすぐったがる私を見て喜んでいる。

「くすぐったいです。やめてってば」

「ん〜どうしようかなぁ」

「もー! 怒りますよ」

しつこい彼に、唇をとがらせるとフッと笑う声がした。

「じゃあ、怒らせたお詫びにこれやるよ」

彼が私の左手を取ると、薬指に指輪をはめた。

「……あの。これって」

「虫除け。へんな虫がよってきたら困るからな。お前が俺のモンだって印。まぁ、俺まだ部長だし、そんなに高いモンじゃないけど」
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