強引上司の恋の手ほどき
「お前の彼氏って、中村だったのか」

「はい、四月に付き合い始めたんですけど……」

「あんまりうまくいってない、っと。だから俺にアドバイスしてほしいってことか」

私はりんごサワーの入ったグラスを両手で持ったまま、課長の様子を伺った。

「ダメですか?」

「別にダメってわけじゃないけど、なんか意外。菅原って案外ミーハーなんだな」

テーブル肘をついたままジョッキを傾けている。

「意外って、なにがですか?」

「相手が中村ってこと。お前もやっぱ爽やかなイケメンが好きなのか?」

好きなのかって……好きだから付き合ってるんだけど。

「社内でも人気があるのは、知ってます。だから私みたいなのと付き合ってるのは確かに意外だけど」

「ちょっと待って。なんか全部違う」

「全部?」

本当のことを言ったつもりなのに、全部違うって……。

「私みたいなのってなんだよ。向こうから付き合ってほしいって言われたんだろ? だったら自信もてよ。すくなくとも俺の知ってる菅原は、そこまで価値のない女じゃないけどな」

「課長……ありがとうございます」

落ち込んでいる私がこれ以上ヘコまないように気を使ってくれてるんだ。

お世辞でもやっぱり嬉しい。

「それに社内で本当に人気があるのは、俺だから」

「え、そこ?」

「あたりまえだろ。ちゃんとお前の認識を訂正しろ」

「アハハハ……わかりました。一番は課長ですね」

色々悩んでいたけれど、課長に話をしているうちに気持ちが軽くなった。
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