強引上司の恋の手ほどき
「……寄ってるな」

「……寄ってますね」

見事なほど中身が片方に傾いている。

「……すみません」

情けないことこの上ない。

私は、課長の手からお弁当箱を受け取ろうと手を伸ばした。

「なにやってんの? 今から食うんだから邪魔すんなよ」

「でも、そんなお弁当」

「寄ってるだけで、味は変わらないだろ?」

一緒に入れておいた割り箸を割って、きんぴらごぼうに手をつけた。

「しょっぱい。お前もくってみろ。ちゃんと味見したのか?」

「あっ!……すみません」

ため息を付きながらも、次のポテトサラダを口に運んでいる。

「まぁ、まぁかな。今度ゆでたまご潰して混ぜてみろ。うまいぞ」

「はい……って課長料理できるんですか?」

「あぁ、大学んときカフェでバイトしてたからな。お前よりはマシな自信がある」

「そうですよね……」

 自分の弁当を食べてみると、課長の言ったとおりだ。

やっぱり、料理下手な私がいきなりお弁当なんて無理があったのかも。

「でも、この玉子焼きは百点だな」

うつむきそうになった私の頭をガシガシとなでた。

髪がグチャグチャになっているけれど、それよりも褒められた事が嬉しい。

「本当ですかっ!」

「あぁ、嘘ついてどうするんだ。甘さの加減がちょうどいい」

「ありがとうございます。実はこれだけは自信があったんですよ」

料理は苦手だが、昔から玉子焼きは母がよく作っているのを横で見ていたので上手に焼ける。ちゃんと褒めてもらえて嬉しい。
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