強引上司の恋の手ほどき
「そうそう、新しい経費精算書のフォーマット菅原さんの案なんだって? すごく使いやすくて部署分取りまとめている私としては、すごく助かっている」

「そうですかっ! ありがとうございます。でも、私だってどうして?」

自分の仕事がこうやって誰かの為になっていて、褒められるのは嬉しい。けれどどうして私がやったって知ってるんだろう?

「課長から聞いたのよ。『あれいいですねー!』って先日廊下で会ったときに声かけたら、『そうだろ? 菅原が作ったんだ』って嬉しそうに言ってた。別に課長をほめたわけじゃないのにね」

課長がそんな風に……。

何千万もの売り上げを上げる営業マンに比べたら、本当に些細なことかもしれない。

でも小さな仕事もこうやって評価してくれる上司の元で働けることを、感謝しなくてはならない。

ふと、中村くんが『誰にでもできる仕事』と言ったことが思いだされて、浮ついていた気持ちが一気に沈んだ。

ダメダメ、なんでも悪いように考えるのは、私の悪い癖だ。

「そうだったんですね。でも、好評でよかった。もっと“こうして欲しい”っていうのがあったら、教えてください。現場のことあんまり知らないので」

「うん。なにか気が付いたら言うようにする。それと……ちょうどお昼ね。ちょっと来てくれる?」

「はい……?」

加藤さんは私をすぐ近くの人気のないコピー室に連れていった。
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