強引上司の恋の手ほどき
「わっ!」

背後から急に声をかけられて驚いた。

「美月さん! 急に声かけないでください」

「アンタがイケメン見てよだれ垂らしてるからでしょ? ほらさっさと仕事しなさい」

「よだれなんか垂らしてません!」

私はデスクに戻ると、未処理ボックスに先ほど中村くんから受け取った書類を入れて、また合わない数字と格闘し始めた。


(あ、ここの数字かも……やっぱり)

一度画面から離れたのが功を奏したのか、さっきあれだけ探しても見つからなかった間違いの箇所がすぐに見つかった。

急いで訂正して保存する。解決して安心したけれど、かかりきりだったせいで他の仕事も溜まってきている。さっさと片付けないと。

未処理ボックスの下から書類を取り出して、早速取り掛かろうとしたときに名前を呼ばれた。

「菅原、おい菅原ってば」

顔を向けるとそこには、課長がこちらに向かって手招きしていた。

席を立って課長のところまで行くと、身をかがめて小声で話しかけてきた。

「悪いけどこれ、どうにかしといて」

差し出してきたのは、今日の午前中が締め切りの伝票だった。

「これって締め切り……」

「わかってる。それをふまえて。そこをなんとか菅原の力でどうにかしてくれ」

顔の前で両手を合わせて頼み込まれる。

「そんな課長がいいって言えば誰も文句いいませんよね?」

「いるだろ、ひとり面倒なのが……」

ふたりでこそこそ話をする。

普段はわりと強引になんでもやっちゃう課長だけど、彼女にだけは弱い。
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