浸透
歪みと歪み
「暑いなぁ」汗が眼鏡のフレームまで伝ってくる。ハンカチは絞れるほど汗を吸い、買ったばかりの炭酸飲料は気が付けば飲み干していた。 「誰がこんな日に遊園地に行こうって言ったの?」 「お前がどっか行こうって言うからだろ」 「36度よ、36度。死んじゃうよ?」 来た時は喜んでたのに、疲れてくると全部を俺のせいにする。腹が立つが、もう家に帰る体力しか残っていなかった。

そろそろ駅に向かうシャトルバスが来る頃だった。 「帰るぞ」
日の光を遮るパラソルを出た時だった。

後ろから右手を握られた。
紀葉夏が甘えてきたのだと思い、振り返ると誰もいなかった。

「うん 帰る」

目線の遥か下からの声だった。
見ると膝をついた女性が、俺の手を握っていた。

うつ向いていて顔が見えない。

「ど、どうしました?」

声がうわずった。

ぴちゃぴちゃと水が滴る音が静寂に鳴る様にはっきり聴こえた。
足元を見ると今まで 乾燥していたアスファルトが打ち水をしたように濡れている。

「帰る」

また女は言った。

女の手がみるみる熱を失い、氷のように冷たくなっていく。
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